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元編集関係者が語るBL業界事情 第二回「BL書籍出版の骨組み」

2012/12/17 00:00

早くも大反響!ヲタ女子で腐女子な元編集関係者が、セキララにBL業界の内部事情に切り込む!?
超リアルコラム。
これから皆さんが日頃知りたいBLのことをゾクゾクと書いてゆきますからね!
BL業界のこんなことが知りたい!こんなことを書いて欲しいなど要望がありましたら、ぜひともコメント欄にブチ込んでみてくださいね。お待ちしてますよ!
ミサキのツイッターは @misaki_dxです 

 出版社にいるといろいろな人と話すのですが、いかに自分が他人に言い難い黒歴史を築いてきたのか、と気づかされることが多々あります。
 そのなかでも特にマズいのが貢ぎ癖……。
 小さなライブハウスや劇場がメインフィールドのマイナー人ばかりを探して、そのようなことを繰り返していました。
 今は歳をとって貢ぎ行為をする気力はなくなりましたが、本を買うこともそれに近い感覚かもなぁ、なんてふと思ったのです。

 というわけで今回は、お金とそれにかかわる部数に焦点を当てます。
 前回「BLの骨組み」について書くと前フリしましたが、他ジャンルとそんなに差異もないため、もっと読者が身近に捉えやすいテーマにしようということで矛先を変えてみました。
 BLだけの話ということではなく、商業で本を出版するときのほとんどに当てはまると思います。

 まずは、お金の話から。
 みなさんご存知かと思いますが、雑誌掲載の場合はコミックにしろ小説にしろ原稿料が発生します。
 マンガならカラー原稿1枚がいくらで、モノクロ原稿だったら1枚いくらというのが各作家ごとに決まっています。小説も1ページごとや文字数で値段が決まっているのがだいたいです。
 もちろん版元ごとに値段は変わりますし、ジャンル・キャリア・実績などでも異なります。新人が最低ラインでスタートして、成果が伴ってくれば金額が上がっていくことになります。
 これが1冊の書籍として出版される場合は、原稿料ではなく印税が支払われます。
「印税」という言葉は知られていますが、どんな仕組みなのかあやふやな人も多いのではないでしょうか。
 印税とは主に音楽業界や出版業界で使われる、著作者に対しての権利使用料です。
 一番有名な例は、カラオケで1回歌うといくらかが作曲担当者と作詞担当者に入るというものですね。
 書籍出版の場合は定価に「印刷した部数」をかけて、そこから印税分の金額を版元が著作者に支払うのが主流です。
 最近は売り上げが落ちてきていることもあって「印刷した部数」ではなく「実売部数」で算出する版元も増えていますが、ここでは2012年現在のBL業界における一般的な計算例を挙げてみます。
 500円の本を1000部刷るときに著作権者への印税が10%だった場合、
500×1000×0.1=50000
ということで、印税は50000円です。
 実際、こんなに少ない部数で刷ることはありませんが、こういう計算で作家に対してお金が発生しています。
 一応、印税のパーセンテージに規定はありません。版元との契約次第です。それでも上限は10%くらいが普通です。
 原稿料が1回のみの使用料なのに対し、印税は契約が失効しない限り印刷するたびに発生します。この流れに上手く乗れれば、夢の印税生活です。

 次に部数についてです。
 この数字が大きくなれば印税の額も増えてくるので重要です。
(定価が上がっても印税は多くなりますが、定価はジャンルの相場やコストで決まるのでここでは割愛します)
 部数は刊行する書籍ごとに決めます。
 まずは販売を担当する部署を中心に、書店からの注文数やその作家の過去の販売実績などを踏まえた初版部数を決定します。
 部数を低めにしても微妙なときは、損益のバランスをとるために印税のパーセンテージも下がります。
 手堅く損をしないことが最優先です。最近は特にその傾向が強いので、初版部数は下降傾向と言われています。
 それでも初版分が調子よく売れていって、「これは在庫が切れてしまうな」と判断すれば重版します。ただ、小さな部数で印刷をかけるわけではないので、長い目で見ても売れ続ける見通しが立たなければ重版はしません。
 なので「在庫が無いなら刷ってよ!」と言っても、会社が「NO!」と言えばそれまでです。
 たくさん印刷しても在庫を抱えてしまえば赤字です。企業としてそんな判断をするわけがありません。
 よって重版がかかるとちょっとしたお祭りになって、帯や広告に載せて人気作であることをアピールするわけです。
 部数が増えれば人気作ということで書店での在庫を充実させてもらえたり、置いてくれる書店が増えることもあります。
 つまり、部数からは「作家の人気度」「版元からの作品に対する評価」「市場の大きさ・熱量」などが読み取れることになります。

 実際に版元で働いて初めて「ちゃんと本を買うって大事なんだな」と実感しました。
 まざまざと在庫数などを見せられて怖くなったのもありますが……。
 本を購入する際にブッ○オフ等の古書店を利用している人もいると思いますが、正規の流通ルート(版元⇔取次⇔書店/版元⇔書店)ではないのでそういう店で買っても儲かるのは店側だけです。作家にも版元にもどこにも反映されません。
 たまに作家への手紙で「ブッ○オフで買いました!」と堂々と書いている人がいますが、失礼にあたるのでやめましょう。どんなに「面白かったです」と書いても、それに対しての正しい対価を払っていなければ売上数にも含まれないので、ありがたみは激減です。
(もし古本を買っていたとしてもおおっぴらに言わないほうがいいです)
 つまり、正しく本を買って実売数に貢献することに大きな意味があるのです。
 1冊買うだけでも十分ですが、気に入った作家や作品を人に勧める際は布教用に買ったものをあげるくらいじゃないといけないな思い、最近では複数買い計画を実行しています。
 あ、これは某アイドルグループのファンと同じ考え方かも……?
 でもそれが結果的にブームになって巨万の富を動かしているわけだから、あながち間違ってないかもしれないですね。

 ただ、貢ぎとか尽くす行為は結局自己満足の世界だと思うので、間違っても相手に見返りを求めたり恩着せがましく押し付けたりしてはいけないと思っています。
(見返り欲しさにやっている人もいますが、それで思い上がるとだいたい痛い目に遭う鉄則)
 あと、常に金欠に見舞われる覚悟をしておくことも大切です。
 すべてを自覚したうえで買い物を楽しむのは自由だと思うので、尽くしたい型の性格の人はぜひ意識しながら本を買ってみてはどうでしょう?

 ご意見・ご感想はコメント欄かツイッターアカウント@misaki_dxまでお寄せ下さい。

紹介者プロフィール:ミサキ
ヲタ女子で腐女子の残念な元編集関係者。欲望の赴くままに業界に足を突っ込むも、根気の無さと面倒くさがりが遺憾なく発揮され現在フェードアウト中。「好きなこと=できること」にするのを目標に、目下自分探しの旅を(二次元のなかで)繰り広げている。座右の銘は「世の中やっぱ金と欲」。 近況:そろそろ花粉が飛び始めているというのは本当なのでしょうか? 備え始めなければ……。

コメント6

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確かに作者さんでいう事ではないですね。

ブックオフで買いました!というような宣言は裏に
あなたの本がブックオフに叩き売られました!と言ってるようなものですから。

ちるちるの非常に古い本のレビューだと
「新刊では買えないほど売れてる」
という風に無理やり解釈できなくもないですが、それでも
「出版社が重販できないと判断した」
と考えると辛い所で。

まぁ、本屋さん独特の特典がよかった場合を除いて
買った場所なんか言わないのが一番いいんでしょうね。

情けは人の為ならず、的な。

安さや手軽さに惹かれるのは本当によく解るのですが、巡り巡って結局は好きなコンテンツが衰退してしまったら元も子もないですよね。
こういった流通の仕組みが健全な運営状況に深く関わっているのだということを、単なる知識としてではなく実感を伴って知ることは非常に大切な事だと思いました。
自分自身は日頃からBLに限らず書籍もCDも新品を購入するのであまり意識しておりませんでしたが、新刊・新譜を購入することの重要性に改めて気づかされました。
BLCDの版元さんの倒産等にも、原因の一つとしてそういった問題が絡んでいるようですし、オークションなんかも見ていて切なくなる時がよくあります。BLCDなどは販売方法を根本的に変えていかないと(office等のPCソフトのように、何らかの限定的なID認証がないと読み込み出来ない仕様にする、とか。現実的ではないのかもしれませんが…。)どんどん衰退していってしまうのではと危惧しております。複製がこんなにも簡単に出来てしまう以上、ある程度の厳しさは必要なのではないかなと思いました。購入者の意識改革はもちろん最優先で必要ですが、販売する方も自衛手段をもう少し高めていく必要があるのかもしれませんね。
それはさておき、微力ながら作家さんやBL・BLCD業界保護の一助になれれば、そして、好きな作家さんや版元さんが正当な利益を得られますようにという気持ちで、これからも新品をポチっていこうと思います。印税等の記述も興味深かったです。有意義な記事をありがとうございました。

訂正です。

↓の投稿をした者です。
「新刊・新譜」とは
×ニューアライバル商品
○新品の刊行物・新品のCDソフト
のつもりでした。間違った表現で申し訳ありませんでした(_ _;)

レンタルの仕組み

有意義なコラムでした。
ありがとうございます。

これを受けて気になるのが、ネットのレンタル。
どんな仕組み(出版社や作家との契約や支払、印税の面など)になっているか、知りたいところであります。

機会があれば、是非に。

出版業界は新興宗教か?

コラム中にブックオフの話がちらっと出てきましたが、現在、ブックオフの筆頭株主はDNP(大日本印刷)、ほかにも大手出版社が大株主として名前を連ねていますよね?業界全体で中古本の売買利益を最終的には作家や版元にも還元しようという狙いがあってのことですが、1ユーザーとしては「やっとやる気になったか…」って感じです。
有名漫画家が名前連ねて「古本買うな」と雑誌に意見広告出しているのありましたが、ああいうの見ると正直、違和感がぬぐえません。
例えばですよ、芸術家と鑑賞者の関係だったら、作家は「見ていただいてありがとうございます」が基本です。古本買うな、オレの給料減るだろとか堂々と主張する漫画家ってクリエイターとしては何様!?だと思う。「オレ様の給料あげるための努力」のベクトルが違う(笑)そこは業界として解決していくべき問題で、エンドにいる消費者は法律上合法的なものに金を出して買ってることにはかわりない。出版業界の事情に消費者が合わせるなんてことはおよそ現実的じゃないでしょう。
BL業界が衰退とか出版業界が衰退とかっていうのも何かというと出るフレーズですが、いろいろな意味で出版業界が変わらなければ、そんな一部のユーザーに訴えたところでそれがまた右肩上がりになるわけありません。
だって、同人誌を主体にしたコミケはどう見たって衰退しそうに見えないし、創作系サイトは大盛況ですよ。人々は「読む」ことをやめたわけじゃないんです。今現在の人々のニーズに業界が答えてない、ないしは答えられないってことじゃないでしょうか。
特典Pとか全サとかつけて何冊も同じもの買わせようとする業界はどう考えても健全とは思えない。缶コーヒーじゃないんだから(笑)いや、BL本はコーヒーやチロルチョコと同じだという感覚なのか!?それならば高すぎます。世間一般の企業じゃありえない感覚が「衰退」の一因だと思うんですがいかがでしょうか。

ありがとうございますとしか言いようがありません

私は、一年ほど前にBLという素晴らしいものがあると知り、作って下さる方たちへの感謝の気持ちと、自分もこの分野の発展に少しでも貢献したいとの思いから、それまで何も考えず中古ばかりを利用していたことを反省するようになりました。
今では、絶版で新品が買えないとき、たとえ安く買えたとしても、中古を買わざるをえないことを残念に思います。
新品で買った本が私にはつまらなくても、作られた方のご苦労を思えば正当な対価であり、買うことでこの分野に少しの貢献ができたと思えば、無駄だとは思いません。また、BL以外のものも、新品を買うようになりました。
BLに出会わなければ、ずっと「新品で本を買うのは損だ」という考えだったと思います。
180度私を変えてくれたBLをすごいと思います。
新品で買っても、それを生み出すための労力と受け取る喜びの大きさを考えると、私にとって、世の中の他の娯楽と比べて、これほど良心的な価格のものはありません。
(これはきっと過重労働など、作る側の大きな犠牲によって実現されていることなのでしょうね。そう考えると喜んではいけないところですね。)
今は、以前ほかの趣味に使っていたお金を全てBLの新品を買うことに費やしています。
私はBLを作り出すことも、販売して世に広めることも、ちるちるさんにレビューを送って盛り上げることもできませんが、BLの繁栄のため尽力する方たちに心から感謝しております。
ありがとうございます。

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