何気なくも尊い高校生の日常――『いとしの猫っ毛 小樽篇』雲田はるこ
とある田舎の高校に通っていた頃。
いつも通りの退屈な授業が終わり、周りの生徒は帰り支度を始めていた。
ふいに、前のほうに座っていた男子が、こちらのほうへ笑顔で駆け寄ってきた。そのまま、私の隣の席の男子に楽しげに話しかける。その二人の周りだけ、見るからに幸せなオーラがあふれていた。
「なあ、放課後一緒に〇〇のパフェ食べに行こう! 」男子が二人でパフェ!? そのギャップについつい、二人の会話を聞いてしまう。隣の男子は、「何言ってるんだよ~」といった感じで、ややつれない態度だ。
「え、俺と食べに行くの嫌なの?」「絶対やだw」「え~行こうよ~」「やだ、第一あそこのパフェめっちゃ大きいじゃん」「なら、二人ではんぶんこしようよ!」今、「二人ではんぶんこ」って言った…︎…!? なんという萌えるシチュエーションだろうか。ついつい、腐女子に備わったたくましい妄想癖が反応してしまう。
フルーツやクリームがたくさん乗った大きなパフェに目を輝かせる男子と、付き合わされつつもなんだかんだバクバク食べているクールな男子……まさに鉄板シチュだ。
「じゃあ、17時に校門前集合な!」「ん」あんなに嫌がっていたのに、結局は二人で行くことになったらしい。なんというギャップ……!
一方の私は、現実でもこんな微笑ましい場面に遭遇することがあるのかと、思わずほっこりしつつ、家に直帰して商業BLを読むのであった。
そのときちょうど思い出したのが、雲田はるこ先生の『
いとしの猫っ毛 小樽篇』だ。
二人の高校生が、何気ない日常を過ごしていく中で、お互い唯一無二の存在になっていく……そんな過程が、小樽の情景に合わせてゆっくり、かつ丁寧に描かれた作品である。
どこにでもあるような日常も、二人一緒ならかけがえのない思い出になる。まさに、私が体験したことにぴったりなBLだった。小樽篇の高校生の二人がどうなったかは、『
いとしの猫っ毛』シリーズと併せて読むことでわかるはず。心温まる『いとしの猫っ毛』シリーズを読んで、もうすぐそこまできている春を、暖かく爽やかな気分で迎えてみてはいかがだろうか。
あらすじ
「いとしの猫っ毛」の主人公、幼なじみのみいくんと恵ちゃんの高校時代編。
小さい頃から恵ちゃんに抱いてた気持ちが、恋心だとはっきり自覚したみいくん。
しかし完全にノンケの恵ちゃんに、気持ちを伝えて関係が変わるのを恐れ、絶対に言わないと心に決めたのだった。
思春期の好奇心を丁度良く満たしてくれる大人な相手もいるし、恵ちゃんとは、このまま友だちのままがいいかもしれないと思い始めたみいくん。
しかしある日突然、恵ちゃんに彼女ができたと告げられ心が乱れてしまう…。