BLにたびたび登場するハイスペックな男たち。そんな中から、学者が恋するBL作品を集めてみました。頭脳明晰、容姿端麗な彼らの恋愛偏差値ははたして…。
文学者の場合 成澤准教授の最後の恋 著者・高遠琉加 / 挿絵・高永ひなこ / ルビー文庫(2010年)
好きな文学を仕事にし、容姿も申し分なく、その年齢にしては十分な地位と名声を手に入れていながらも退屈な日々を送っていた成澤。そんな成澤が興味を引かれた相手・蒼井は、地味で生真面目な新人編集者・蒼井友也。他の男に想いを寄せていると知りながらも蒼井と身体の関係を持った成澤だったが…。
という、准教授と編集者の身体の関係から始まるお話。成澤は男女問わず、相手に苦労したことのないような男。でも、相手に心奪われるという経験をしたことがなかった成澤は、蒼井に惹かれている事を自覚しても、恋愛するにはどうしたらいいか分かっていません。強引に事を進めてしまいお互いに傷ついて、ようやく成澤は冷静に自分の気持ちと向き合う事に。今まで上から目線で恋愛を見ていた成澤が右往左往する展開は微笑ましくもありますが、その一方で、蒼井の抱えている事情はシリアスで、程良く甘さと切なさが残る読後感になっています。
初めての恋愛に翻弄されている成澤の様子を楽しみながら、蒼井が開発されていく様にニヤニヤすることもできるこの作品。エロもしっかり美味しいです! そして、流石フランス文学者、クールそうな成澤が無意識に連発するクサイ台詞にもご注目下さい(笑)
心理学者の場合 愛とは言えない(全4巻) 著者・榎田尤利 / 挿絵・町屋はとこ / BBN(2010〜2012年)
実業家の橘高義美は、ある日オーナーを務めるレストランである男を見つける。その男・目(サガン)雅彦とは大学時代の一時期、身体の関係を持っていたが、心を手に入れることは出来なかった。今度は手放したくないと、橘高はサガンにアプローチをかけるのだが…。
という、実業家と心理学者の再会もの。再会したふたりは再び関係を持ちますが、またしてもサガンは消えてしまいます。難攻不落なサガンの心。橘高のようなプレイボーイが自分になびかない相手に本気になっていく、そんな展開はBLで珍しくありません。でも、問題を抱えているサガンの事だけじゃなく、橘高の心もちゃんと掘り下げられているので、ただのラブコメで終わらない。橘高が、サガンを追う中で自分を振り返ったり、悩んだりしていて、何でも人並み以上のものを持っている大人の男が見せる弱い部分に、読んでいてドキリとさせられます。そして、サガンもそんな橘高の内面に触れて変わっていく。仕事では辛口な恋愛論を語り、橘高には冷たい態度を取るサガンですが、デレる時はしっかりデレます。ツンデレな心理学者にギャップ萌え間違いなし!
タイプの違うふたりが、互いの言動に振り回されながら、問題を乗り越え相手の存在を大切に想っていく過程が丁寧に描かれているこの作品。コミックス「恋とは呼べない」とのコラボシリーズになっています。併せて読む事で、世界観をより楽しむことが出来、読み応えたっぷり!
数学者の場合 片思い 著者・木原音瀬 / 挿絵・伊東七つ生 / BBN(2013年)
所属する大学の研究室の講師・松下が、自分に好意を寄せている事に気付いた大学生の門脇。21歳になったばかりの門脇にとって、同性でひとまわり以上も年の離れた存在感の薄い講師・松下は恋愛対象として考えたこともない存在だった。そんな気持ちを直接伝え、松下も静かにそれを受け入れたが、その後も松下の門脇に対する親切は続いていく。心が伴わないまま、いつしか身体の関係を持つようになるのだが…。
2カップルの話が収録されている中で、『あのひと』『それから』が講師と大学生のお話です。冷静沈着で、淡々としている門脇に想いを寄せている、影の薄い講師・松下。報われないと分かっていても好きだからその手を離せなかった、そんな松下の気持ちを考えると切なく、序盤はもどかしい状況が続きます。でもその分、門脇の気持ちが表に出ていた後半の関係が、控えめなふたりながらも甘くてほっこり。恋愛がどんな感情なのか分からないと言っていた門脇が、松下への恋愛感情を意識した途端すごい勢いで恋に堕ちていき、同時にどんどんふくらんでいく不安と戦っている、その一生懸命な姿がとても微笑ましいです。一方の松下も、かなり年上だけど恋愛経験は少なく奥手で、しかもちょっと世間知らずなところのある学者なので、スマートにリードは出来ません。年を重ねて大人の落ち着きがある一方で、若い恋人相手に自分に自信がもてない。悩んだり不安になる中で、それが気持ちのすれ違いに発展したりもするのですが、最後には一緒に乗り越えようとするふたりの関係が好感度大です。
静かで穏やかな中に情熱を秘めた、地味で臆病な数学者が落ちた恋。じわじわと押し寄せる萌えと感動を、是非どうぞ!
科学者の場合欲情螺旋 著者・水戸泉 / 挿絵・葛西リカコ / ダリア文庫(2010年)
遺伝子操作によってどんな病気も怪我も治すことが出来、金さえあれば、健康も若さも維持できるようになった世界。その技術は貧富による格差を広げ、そして、遺伝子の優良化を肯定する『Art派』、それを否定する『Natur派』の対立を生んでいた。エリートが集まる厚生保全省の最年少研究員・永瀬慎治は、亡くなった天才研究者の子供・波代亨を引き取り、一緒に暮らしていたのだが…。
という、近未来ファンタジー。遺伝子優良化を否定しながら遺伝子工学の研究をしているという矛盾を抱え、慎治はストレスの絶えない日々を送っていますが、亨の存在によって救われている。そんな中、キョウイチという男の登場で、穏やかに過ぎていた亨との日々は一転。慎治は亨が秘めていた自分への想いを知り、さらに、キョウイチの存在が慎治をさらに追い詰めていく。過去の愛憎入り交じる複雑な関係が10年後大きく動き出す、壮大なこのお話。所謂マッドサイエンティストものではありますが、その背景にある複雑な感情と人間関係が軸になっていてしっかりラブストーリーに仕上がっています。次々と明らかになっていく真実の数々と、そこに秘められた執着と愛情。ただのハッピーエンドでは終わらないブラックなニオイ漂う展開が面白く、閉鎖的な関係が魅力的です。そして、複数登場人物がいるという事は、もちろんエッチも複数P。一捻りある萌えが効いていますよ!
科学者ならでは愛情表現と、濃厚な萌えが存分に楽しめるこの作品。一癖ある作品が読みたい、JUNEな雰囲気を味わいたい、そんな方にオススメです!
記者
にゃんこ