軍隊での同性愛は身の破滅―― 4/25発売『くぐもったドラム』昨年スタートしたBL小説レーベル
「ハーレクイン・ラブシック」から4月25日、BL超訳小説第3弾が発売!
海外で「M/M(メールメール)」とカテゴライズされている男同士の恋愛を描く作品を、BL作家による“超訳”で堪能できます。
4月25日発売の新刊は、軍隊で出会った
ヒゲの上官と金髪碧眼の部下の恋愛小説『くぐもったドラム』。超訳担当は英田サキ先生です! このたび、英田先生によるBL超訳の試し読みと、えすとえむ先生が担当するイラストの一部を入手! ぜひ、お楽しみください!
小説『くぐもったドラム』超訳/英田サキ 画/えすとえむ 原著/エラステス
<あらすじ>
軍隊での同性愛は身の破滅――マティアス中尉は、上官ルドルフ大尉と除隊し、共に生きることを誓いあった。だが予期せぬ運命の嵐がふたりを襲う。
落馬したルドルフが記憶喪失となり、愛を交わした二年間を忘れてしまったのだ。ルドルフの軍服の胸ポケットには捨てたはずの妻の写真が納まり、しかもベルリンに“男の恋人”がいると打ち明けられ、ベッドでも手酷く拒まれてしまう。
自分は弄ばれただけなのか。何が真実かわからず、強い猜疑心が芽生えてもなお募る愛しさに、マティアスの心は引き裂かれる……
忘れ去られた青年の、痛く、切ない愛。M/M小説のメロドラマを英田サキがBL超訳で綴る!
<試し読み>
【その指先が少しでも身体に触れたら、確実に誘惑に負けるのはわかっていた。】
「マティア──」
「ゆっくり休むといい。俺はこれで」
不意にマティアスが立ち上った。行かせたくない。そう思うより早く、手が先に動いていた。
ルドルフは以前に何百回もしていたかのように、マティアスの手を掴んだ。とっさの動きは、身体が勝手に反応したとしか言いようがない。
マティアスは驚いた表情を浮かべ、ルドルフを見た。呼吸をすることすら忘れてしまったように、身じろぎもせず固まっている。
「……ルドルフ、離してくれ」
視線を床に落とし、マティアスは困ったように呟いた。だが手を振り払おうとはしない。ルドルフは聞こえないふりで、手綱を握ってできたたこを指でなぞった。そして口もとに近づけ、手のひらにそっとキスをした。
痛みに耐えるようなため息が、マティアスの口から漏れた。ひそやかな官能を滲ませた吐息だった。ルドルフは驚いて顔を上げた。マティアスはぎゅっと目を閉じ、頬の筋肉を引きつらせている。苦しげな顔だった。
「ルドルフ……」
絞り出したような声。それは必死に自分と闘う男の声だった。間違いない。マティアスも自分と同じ気持ちでいる。同じものを望んでいる。
抗いがたい興奮に襲われ、マティアスを強く引き寄せた。倒れ込んできた身体を抱き締め、顎をつかみ、唇を重ねる。もう何日もこの瞬間を待ち焦がれていたかのように、激しく情熱的に口づけた。
最初は歯を食いしばっていたマティアスだったが、ルドルフの唇に熱く求められると、その抵抗もすぐ終わった。
マティアスの唇が開いた。ルドルフは歓喜して舌を深く潜り込ませ、熱い内側を存分に味わった。
ふたりは息を荒らげながら唇を押しつけあった。自分のほうが少しでも優位に立とうとするように、容赦なく相手を貪る。
激しい情熱が渦巻く中、恐怖や絶望から解き放たれていくような感覚を覚えた。
うごめく生き物のように、ふたつの舌は激しく絡みあっている。マティアスの唇は驚きに満ち、炎のように熱かった。なんて甘い口づけだろう。
ここ数日間の強固な自制心は、跡形もなく消え去っている。相手も自分と同じ欲求を抱いていたのは、尋ねるまでもなかった。
その証拠に背中に回されていたマティアスの手は、いつのまにか腿のあいだに移り、股間へと上がってきていた。
熱い手が、ルドルフの分身をまさぐってくる。強く握られ、呻き声が漏れた。
ああ、これだ。これを待っていたのだ。
ルドルフの胸は期待と喜びに高鳴った。股間はじわじわと熱を帯び、性器はリネンの生地を突き上げて屹立した。
マティアスが口づけをしながら覆いかぶさってきた。夢中になってベッドに押し倒してくる、マティアスの興奮が嬉しかった。今までのどこか感情を押し殺したような彼とは、別人のようだ。
マティアスは自分のいきり立ったペニスを、ルドルフのものにこすりつけてきた。自分の上で夢中で腰をくねらせるマティアスが、たまらなく可愛かった。熱を帯びた二本の剣が淫らに合わさり、また新たな熱が生まれてくる。
ひんやりした寝巻きの生地ごしに受ける刺激は、至福の拷問のようだった。雄と雄のもどかしい交尾。エルンストならけっしてこんなじらし方はしない。
──エルンスト。
突如、恋人の存在を思い出し、血の気が引いた。私はなにをしているんだ?
「だめだ、私にはできない……っ」
ルドルフは息を荒らげながらマティアスの身体を押しやると、寝返りを打ってベッドの端に座った。
「マティアス、どうかこのことは忘れてくれ。私がどうかしていた」
本当にどうかしている。あれほど大事に思っている恋人の存在を、すっかり忘れてしまうなんて。今の自分にとって、エルンストの記憶は一番大事なものだ。
それなのに甘い誘惑の前に、大事な記憶すら一瞬にして溶けてなくなった。愛情より肉欲を求める自分が恥ずかしい。
「これはけっして許されることではない」
できるものなら続けたかったが、黒い瞳の若者の存在は大きすぎた。それにマティアスは駄目だ。欲望を解消するためだけに抱いていい男ではない。マティアスには尊敬と友情を感じている。目先の快楽に流されることは、それらを足で踏みにじるにも等しい行為だ。
マティアスとはこれからもいい友人でいたい。だったら引き返すしかない。
しかしすでに情熱を燃え上がらせているマティアスは、簡単に引き下がらなかった。マティアスはルドルフの隣に身を寄せて、強く腕を取った。
「許されないことなんてない。頼むからやめないで……っ」
耳もとで囁かれ、首筋にキスをされた。ルドルフは新たな欲望に身震いした。それでも意思の力を振りしぼり、なんとか立ち上がってマティアスの抱擁から離れた。
「とにかくできないんだ。私は……私は自由の身ではない」
「奥さんのこと? それなら平気さ。この関係が奥さんに知れることは絶対にない」
マティアスはベッドに戻ってきてくれと懇願するように、手を差し出してきた。
ルドルフは身を切られるような気持ちで、後ろに下がった。その指先が少しでも身体に触れたら、確実に誘惑に負けるのはわかっていた。
「違う……妻ではない。お前が私と同じ世界に生きる者だとは知らなかったんだ。もしかしたらそうかもしれない、いや、そうであってほしいと思ったが、今この瞬間になるまでは確信が持てなかった。つまり私には……」
説明しようとすればするほど、適当な言葉を探すのが困難になった。
「決まった恋人がいるんだ。相手は若い男で、ベルリンにいる。私の帰りをずっと待っている」
マティアスは差し出していた腕を落とし、目を見開いた。ろうそくのほの暗い灯りの中でも、顔が青ざめているのがわかる。
「……嘘だろう? 俺を諦めさせるために、嘘をついているんだよね?」
声はかすかに震えていた。ルドルフは「本当にすまない」と頭を振った。
「恋人を裏切るわけにはいかないんだ。わかってくれ」
「嘘だ。あなたは嘘をついてる」
……続きは本でお楽しみください。
このほかハーレクイン・ラブシックからは4月25日、鹿住槇先生の小説『制服の愛人』が発売。同レーベルは海外小説のBL超訳とともに、日本の絶版名作BLの復活を手がけています。
今回の『制服の愛人』は2002年発売作品に書き下ろしを収録。イラスト担当は、麻生ミツ晃先生です。こちらも後日紹介しますので、お楽しみに!
すでに、
ハーレクイン・ラブシックのTwitterでは麻生ミツ晃先生のイラストなども紹介中です!
(c)英田サキ/えすとえむ/ハーレクイン
コメント8
匿名1番さん(1/1)
正直、BL超訳とかいるか?普通に翻訳でよくない?と今までのラインナップを読んで思ってましたが、これは面白そう。
英田先生は基本的にシンプルな描写をする作家さんだから、海外モノと波長が合ってると思います。
匿名2番さん(1/1)
おいルドルフw
試し読みの段階だと、ルドルフが支離滅裂ですね。
優柔不断なのかな。
というか、えすとえむさんの挿絵がめちゃくちゃ素敵!!!!!すんごい雰囲気出てますね。
匿名3番さん(1/1)
熱を帯びた二本の剣………ぐふw エルンストって人の存在が気になりますね
匿名4番さん(1/1)
予約しようと思ったら5月14日にはkindle版も出るようで、、イラスト有りなのかな?
このお試し見ちゃったら絶対イラスト付で読みたくなりました。
匿名5番さん(1/1)
英田さんは文章に特別特徴があるわけでもない。
むしろ硬くて人を選ぶのになんでわざわざ超訳なんだか疑問。
匿名6番さん(1/1)
匿名5番さんの疑問への答えは、ネームバリューってことにつきるのでは?
このシリーズ、最初っから普通にプロの翻訳家の人の訳だけでいいのにって思ってた。
今まで出たのは本文中にイラストはないし、ペーパーバックを意識してるつもりなのか作りは安っぽいのにこの値段?
割高になる一部は、この超訳だと思う。
ココナッツさん
翻訳BL大好きですが、わたしも匿名6番さまのように超訳にしないでも変わらないのでは?と思っております。
最初は訳者の方が全部訳してから、それを読んで少しBL作家さんが変えているだけなのかなとも思いますし…
どの程度あとから変えてらっしゃるのかわかりませんし。
その超訳の時間で、出来ればBL作家さんにはオリジナルを出して頂きたいです。
あとハーレクイン・ラブシックさんは翻訳物と絶版日本作家さんと両方出されているので、ホワイトハートさんのようにカラーなどでわけて頂ければ違いがわかりやすいのにとも思ってます。
匿名7番さん(1/1)
だけど前回の「美しい獣たち」「ひかげの薔薇」には、イラストがたくさん入っていたのでは?
私は洋書読みなのだけど、ペーパーバックって、ものすごく大きくて分厚いんです(ごわごわしてる)。どうやらこれは、本家のハーレクインロマンスの大きさにあわせてあるみたいです