借金取り立て屋と才能ある役者の運命の出会い。これは救済か、それとも…
粗野な借金取り立て屋×恋を知らない天才役者の二人乗りがエモい2020……すみません、冒頭から取り乱してしまいました。
以前BLニュースでもお伝えした、大注目のベトナム映画『
ソン・ランの響き』。「第31回東京国際映画祭ジェムストーン賞」のほか世界の映画祭で数々の賞に輝いており、公式サイトにも
「孤独な二人の人生がひととき交差するボーイ・ミーツ・ボーイの物語」というコピーが掲げられているなど、腐女子的にも見逃せない注目作です。
今回は、2/22の公開に先立ちこの『ソン・ランの響き』本編を徹底レビュー。予告編では伝えきれない本作の魅力をご紹介します!
まずはおさらいから
■あらすじ
80年代のサイゴン(現・ホーチミン市)。借金の取り立て屋・ユンは、ベトナムの伝統歌舞劇<カイルオン>の花形役者であるリン・フンと運命的な出会いを果たす。初めは反発し合っていたふたりだったが、停電の夜にリン・フンがユンの家に泊まったことをきっかけに心を通わせていく。実はユンはかつて<カイルオン>には欠かせない民族楽器<ソン・ラン>の奏者を志した事があり、楽器を大切に持っていたのだった。一見対照的だが共に悲しい過去を持つふたりは、孤独を埋めるように響き合う。やがてこれまで感じたことの無い気持ちを抱き始めたふたりは、翌日の再会を約束し別れる。しかし、ユンが過去に犯したある出来事をきっかけに、ふたりの物語は悲劇的な結末へと突き進んでいく――
ポスター左:ユン(リエン・ビン・ファット)借金の取り立てを生業とし、返済が遅れた客には暴力もいとわず、周りから恐れられている。しかしそんな外面とは裏腹に、子供には穏やかな表情を見せたり、自分に憧れをもつ青年を諭したりと、複雑な内面を隠し持つ男。
ポスター右:リン・フン(アイザック)ベトナムの伝統歌劇<カイルオン>の花形役者。テクニックは天才的だが、芝居に感情がのらず、劇団の仲間から「もっと人生経験を積め」と言われている。ユンのソン・ランの腕前を見込んでユンをカイルオンの道に誘う。
ソン・ランとは?
本作のタイトルにもなっている「ソン・ラン」はベトナムの民族楽器で、カイルオンの公演には欠かせないもの。ソン・ランには「二人の(Song)」「男(Lang)」という意味もあり、映画の中ではこのソン・ランの音色が独特な存在感を放っています。
孤独な二人が身を寄せ合った、美しくも哀しい三日間
二人の出会いは偶然か、それとも運命か。リン・フンが所属している劇場にユンが借金の取り立てに訪れるところから、二人の物語が動き出します。
リン・フンの演技に魅了され、飲み屋で酔っ払いに絡まれているリン・フンを助けるユン。鍵をなくしたリン・フンはユンの家に居候することになり、二人はぎこちないながらも徐々にその距離を縮めていきます。
湿っていながらもどこか張り詰めているようなサイゴンの風景の中で淡々と進んでいく二人の物語がとにかくエモい……。ユンが取り立てに行く先の人々の暮らしと、リン・フンが主演を務めるカイルオンの豪奢な舞台との対比も印象的です。
あと、純粋に役者さんお二人のお顔がいいです。お二人ともタイプの違ったお顔立ち・雰囲気で、これまで二人が生きてきた環境の差や現在の暮らしぶりの違いがとてもよく伝わってきました。大事なことなのでもう一度言います、すごく顔がいい。
高利貸しの取り立て屋と新進気鋭の天才役者という絶対に交わることのない二人の人生が交わるシチュエーションにも非常にグッと来ました。
過去に囚われた男・ユンの危うい魅力
物語の序盤でユンは粗野で暴力的な男として描かれますが、実はソン・ラン奏者の父をもち、ヤクザでありながら音楽にも造詣が深いというとんだギャップ製造機。
父母を早くになくし、身寄りのなくなったユンは、生きていくために取り立て屋という職業を選ばざるを得なかったという辛い過去を背負っています。不愛想ながら取り立て先の子どもには優しく接するなど、ユンの不器用な生き方に胸が締め付けられました。
とはいえ、ユンがこれまで荒っぽい手法でお金を取り立ててきたのも事実。その辺りの業がとても重要なファクターなのですが、あんまり書くとネタバレになってしまうので、クゥ~!という感じです。
また、何と言ってもユンはすごく目で語る男だな、と。特に、カイルオンを見ているときやリン・フンに対する視線がふっと優しくなる瞬間が……最高でした。口数が多いわけではない分、ふとした視線や表情にユンの危うげな魅力がぎゅっと凝縮されていました。
恋を知らない天才役者、リン・フンの雪解け
カイルオンの花形役者として人気を集めており、裕福な客からも支援を受けているリン・フン。しかし、その確かな演技の実力とは裏腹に、劇団の師匠からは「恋や愛を知らないから人を感動させられない」とも言われています。恋を知らない天才役者って、そんなのおいしいに決まってるじゃないですか……。
頑なでストイックな印象のリン・フンですが、ユンとの出会いを通して少しずつその表情が柔らかくなっていき……最終的にはユンに対してここまでニッコニコになります。かわいいね……。
ユンと一緒にテレビゲームをプレイしたり、停電のさなか自身の生い立ちを語ったりと、だんだんと心を開いていく描写がとても丁寧でした。
ユンとの出会いを経てリン・フンの演技がどのように変わっていくのか、ぜひスクリーンで確かめて見てください。ラスト5分くらい、筆者はずっと胸が締め付けられてました。
このラストシーンをどう捉えるかはあなた次第
カイルオンで上演されている劇中劇のシナリオやリン・フンと出会うまでのユンの行いを考えると、「やっぱりこうなるか……!!」と唇を噛まざるを得ないラストシーン。筆者も鑑賞中は中盤くらいからずっとハラハラしていました(そもそも公式サイトに「美しくも哀しい」とがっつり書いてあったのでそれなりに覚悟はしていましたが)。
鑑賞後はひらすら「因果とは……」「過去と現在とは……」「生きるとは……」というような思考がぐるぐるしてしまい、儚くもどこかじっとりとした余韻の残る作品でした。
画面に映っているのはあくまでも「状況」のみで、登場人物の心情がはっきりと言葉では説明されていないため、見る人の数だけエンディングが存在するのではないかな、と思います。
BLコミックの文脈で言うと、阿仁谷ユイジ先生の「
刺青の男」や冥花すゐ先生の「
イトウさん」あたりの
「OPERA」好きの方にはぴったりハマるかもしれません。
また、
文善やよひ先生など
民族系BLがお好きな方も、カイルオンの衣装や映画全体の雰囲気をとても楽しめるんじゃないかなと思います。
切なさと救いと因果でめちゃくちゃになりたい方は2/22の劇場公開をお楽しみに!
2020年2月22日より新宿K’s cinema他ロードショー
映画『ソン・ランの響き (原題:Song Lang)』
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
<スタッフ・キャスト>
監督:レオン・レ 脚本:レオン・レ ミン・ゴック・グエン 撮影:ボブ・グエン
プロデューサー:ゴ・タイン・バン 製作:STUDIO68
出演:リアン・ビン・ファット アイザック スアン・ヒエップ
提供:パンドラ 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
【2018年/102分/ベトナム】 公式HP
(C)2019 STUDIO68
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担当BLソムリエ:ホシノ
救済BL好きの腐女子。 ちるちる社長から「ホシノさんの好きな作品は一般受けしません」と言われ続けている。
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コメント1
匿名1番さん(1/1)
公式にファミコンしてる写真がありました、なつかしい