詩的で耽美な少年達の園に足を踏み入れてみませんか?突然ですが、皆さんは『ギムナジウム』と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。少年、耽美、背徳…普段はあまり耳にしない単語なので、もしかすると「聞いたことはあるけど…」という方もいらっしゃるかもしれません。
ギムナジウムとはヨーロッパの中等教育機関のことであり、日本でいうところの中高一貫教育に近いものと位置付けられます。似たようなものとしてイギリスのパブリックスクールが存在しますが、学費の問題や公立・私立の違いなどから厳密には区別されるとのこと。
当時多くの乙女に衝撃を与え、日本のBLの原点とさえ言われている萩尾望都先生の
『トーマの心臓』や竹宮恵子先生の
『風と木の詩』の舞台もこのギムナジウム。これらの作品はBLではありませんが、その独特の雰囲気に魅了された読者は数多く存在しています。
さて、ではギムナジウムを扱った作品にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は、ギムナジウムBLのもつ魅力について一素人である記者が独断と偏見満載で考察していきたいと思います。
美少年 それは究極の二次元性まず、こうしたギムナジウムを舞台にした作品に共通することとして、当たり前ではありますが登場人物の大半が少年であることが挙げられます。それも美少年たちばかり。
「美しい少年」という究極の二次元性、これはひとつ大きなポイントです。
そして、彼らは寄宿舎に身を寄せ一年のうちの大半を学校で過ごしますが、これもまた見過ごせない特徴の一つ。すなわち、学校という閉鎖空間の中で幅広い学年の少年たちが生活を共にしているという点です。
ギムナジウムの生徒たちは、家を離れ多感な時期のほとんどを学び舎の仲間たちと共に過ごすのです。記者にはそれにより見られる
少年たちの独特の繋がりがキモであるような気がしてなりません。
しかし、それだけであれば通常の(ないし日本の)全寮制の学校にも当てはまるのではないかという疑問が湧き上がります。その疑問への答えとして、記者は
宗教性の有無が挙げられるのではないかと考えます。
ギムナジウム作品に登場する少年たちは当然のように信仰を前提としており、『トーマの心臓』においてユーリが思い悩むのもそこに信仰があるからこそですよね。
厨二心を掴みまくる「洋風建築と少年」そして、忘れてはならないのが少年たちの生活している学び舎。学校自体の建築物はもちろん、礼拝堂や中庭など読み手の厨二心をこれでもかというほど刺激してきます。極端な話、記者は「洋風建築と少年」という響きだけでご飯が三杯は食べられるのではないかと錯覚するほど。
さらに、記者がギムナジウムものを読んでいて強く感じるのが他の作品との「時間」の感覚の違いです。
例えば日本の学園ものを読むときであれば「彼らは今は高校生(中学生)だけどこれからどんどん大人になっていくんだろうな」という目線を持つことが多いのですが、ギムナジウムものに関しては何故かそうした時間の経過が想像できないのです。もちろん作中ではしっかりと時間が経過しているのですが、
「彼らは永遠に少年のままなのではないか」という謎の錯覚を抱いてしまうのです。
これがギムナジウム3つの魅力以上をまとめると、ギムナジウムの魅力は
・登場人物が独特な繋がりを持った(美)少年たちばかり
・作品に描かれる宗教性が厨二心をくすぐる、ポエミー
・「学校」という閉鎖空間の中では時が止まっている
という点にあるように思います。
オメガバースとギムナジウムさて、ここからは余談になりますが、最近ではめっきりこうしたギムナジウムBLとも呼べるような作品が少なくなっているように思います。そんな中、記者が個人的に上記のようなエッセンスを含んでいるなと感じた作品はyoha先生の
『さよなら恋人 またきて友だち』です。
商業BL界でもすっかりお馴染みとなったオメガバースを扱った作品なのですが、Ωであるカナエを巡ってクラスの生徒たちがそれぞれ思惑を抱き、そうした様々な思いが絡み合って物語が進行していくという様はギムナジウムBLを思わせます。
もちろん舞台は日本なので特定の宗教などが絡んだりはしないのですが、『オメガバース』という特異な設定が作品に薄暗い影を落としています。yoha先生の描く少年達の美しさと、『クラス』という閉塞感がたまらない1冊かと思います。
また、こちらはBLとは離れはするのですが、ギムナジウムについて調べている際に『エンギムナジウム』という素敵なプロジェクトに出会いました。
こちらはフォトグラファーである
斎藤エンさん主催の森の中の寄宿舎に身を寄せる7人の少年たちの姿を捉えたフォトプロジェクト。想像の中のお話だと思っていた情景がそのままの形で具現化されているかのような錯覚に陥るほど素敵なお写真ばかりです。
このように、現代においても多くの人々を魅了してやまないギムナジウムの世界。その色褪せない魅力がもっと広がることを願って!
記者 星野