涙する事間違いなし!
動の名作3作に続いて、静の名作を今回ご紹介します。
発売3年たっても人気の名作ランキング2位は、2007年発売シリーズ1作目
「言ノ葉ノ花」。番外ストーリーや同人誌をまとめた「言ノ葉便り」が6月に出版され、それがきっかけで注目度が上がりました。そして2008年に発売されている
BLCDも未だに大人気という息の長いシリーズです。
大量ランクインした凪良ゆう作品のなかでもっとも評価が高かったのが、静かで切ない「
積木の恋」。ジワリ温かい読後感がなんとも言えません。
「
箱の中」「
檻の外」は後に講談社から文庫版でも発売された木原音瀬の衝撃的なBL。せつなく痛いストーリーは一度読むと忘れることができません。
小説、CDともに大人気のシリーズ言ノ葉ノ花 著者:砂原糖子 / 挿絵:三池ろむこ / Dear+文庫(2007年)
3年前のクリスマスイブ、余村和明は突然“人の心の声が聞こえてしまう”不思議な力を手に入れた。人間不信に陥った余村は日常生活さえままならなくなり、すべてを失ってしまう。ようやくその能力と折り合いを付けられるようになり、家電店の販売員として働き始めたある日、ほとんど会話も交わしたことの無かった同僚・長谷部修一の声を聞いてしまった。その声は自分への好意に溢れていて…。
“心の声が聞こえる”というのは便利そうですが、誰もが持っている負の感情まで聞こえてしまうのは精神的に負担がとても大きい。孤独な余村にとって、裏表が無く誠実な長谷部がよせる好意は心地よく、その気持ちに流されるように関係を持ってしまいますが、自分の気持ちはハッキリしません。
非日常的な設定ですが、最終的に二人が見つけた答えは普通の恋愛にも通じる部分です。特殊な力がふたりの出会いの架け橋になるだけでなく、それが大きな障害の原因ともなって問題に直面し、そうした困難を乗り越えて余村と長谷部の間に本当の意味で信頼関係が築かれていきます。人と関わることに怯え、藻掻いている余村が切なく、泣かされます。
ちなみに、もちろんエッチの最中もこの能力で心の声がだだ漏れ…という事で、萌えエロも楽しめますよ!
4作ランクインの凪良ゆう作品でもっとも高い評価積木の恋 著者:凪良ゆう / 挿絵:朝南かつみ / プラチナ文庫(2011年)
名前も過去も偽り、ゲイバーで加賀谷聡に声をかけ、身体の関係を持つようになった恋愛詐欺師の五十嵐蓮。けれど、聡はそんな蓮を疑うことなく優しい。次第に「騙したくない」気持ちを無視できなくなる蓮だが、聡に愛されている偽りの自分を壊すことも出来なくて…。
という、詐欺師と真面目な男の話です。騙すはずが恋に落ちてしまいますが、愛されているのは偽りの自分。そのジレンマに追い詰められ、結果、蓮はすべてを失ってしまいます。その後、紆余曲折を経て無事恋人同士になるものの、共に生きていくために乗り越えなければならない壁は、ここからでした。生い立ちが不幸だった事もあり、蓮は自分に自信がありません。「どうせ自分は…」と先回りして諦めているのは、周囲の環境だけでなく、聡との関係においても同じ。ふたりの間にある距離は、一緒に暮らしていても縮まりません。聡はそんな蓮の心が開くのをじっと待っていて、でも大切な場面ではしっかり蓮にぶつかっていきます。穏やかな日常の中にある小さな違和感がふとした切っ掛けで大きくなっていく。そこで逃げ出しそうになる蓮と、繋ぎ止めようとする聡のやりとりが丁寧に描かれていて、胸が熱くなる。聡の言葉が優しく心に響きます。地味な印象の聡ですが、静かな中に秘められた芯の強さが素敵。
人間関係は積み上げ築いていくものであり、時に些細な事で崩れてしまう。「積木の恋」は、大切な事を改めて気付かせてくれる素敵な作品です。
木原作品 痛みの絶頂箱の中、檻の外 著者:木原音瀬 / 挿絵:草間さかえ / Hollyノベルズ(2006年)
普通に生きてきた普通の公務員・堂野崇文。しかし、ある日痴漢に間違われ、冤罪で実刑判決を受け刑務所に収監されてしまう。何も悪いことはしていないはずなのに何故。精神的に追いつめられていく中で堂野の心を癒したのは、同じ房で生活する、いつも無口な喜多川圭の優しさだった。ふたりの距離は近づいていくが…。
全く別の世界で生きていたふたりの人間が、刑務所という特殊な環境で出会い、人生を紡いでいくお話。刑務所での話が『箱の中』で、堂野視点。その後、再会してからの話が『檻の外』に喜多川視点で書かれています。
刑務所での関係を、堂野は恋愛感情ではなく人間愛的なものだと位置づけていますが、不幸な生い立ち故に精神的に幼い喜多川は、異常とも思えるような執着で堂野を求めます。堂野の出所で繋がりは断たれ、数年後、喜多川は堂野を探し出しますが、そこには妻子と暮らす幸せな堂野がいた…。友人として新しい関係を築きながらも、喜多川はずっと想い続けています。そして、ある事件をきっかけに、堂野は喜多川への『情』が『愛』であることを認めることに。ふたりが苦しみ、成長していく姿に涙すること間違いなし。『愛って何なんだ』という堂野の葛藤が胸に響きます。
人間の弱さやエゴのような痛い部分に切り込んでくる、そんな木原作品の魅力を存分に味わうことの出来る名作です。BLという枠を超えた、ふたりの男の人生をご堪能あれ。
さて
今回の名作BL小説は上位15位を6人の作家で占めるという状況でした。
2006年~2007年のエンタメ系、壮絶に痛い系が今でも人気となっていますね。またシリーズ作品がいっしょにランクインすることが多かったのですが、凪良ゆう先生は4作とも別シリーズと強さが光ったといえるでしょう!
記者
にゃんこ
コメント2
匿名1番さん(1/1)
にゃんこさんの記事、好きです!
3つ中、2つ未読ですごく気になって、今ポチってきました。
到着が楽しみです!
よこたさん
3作とも、作品終盤には胸の内にザアッ!と風が吹き巻き上げらるような感覚に陥りました。淡々と進行していながらいきなり気持ちを追い立てられました。「静」と分類されていることに納得です。