新刊の中から、話題になっている作品、私のオススメ作品などをピックアップして紹介します。視点は少々(いや相当?)偏っていることもありますので、ご注意くださいませ?。
今回は女装ネタのおすすめ作品を2作ご紹介します。
■宇田川町で待っててよ。/秀良子/onBLUEコミックス 百瀬が地元から離れた街で見かけた女装した男は、クラスメイトの八代だった。クラスでは目立つグループにいて、彼女もいたりするような八代が何故?と気になって仕方ない百瀬は、それ以来八代を意識するようになっていく。一方の八代は、自分の秘密を知った百瀬に「付き合って」と告げられ戸惑いを隠せない。普段大人しい百瀬の豹変や、暴走し気味の執着を不気味に思いながらも、「かわいい」と言われるとドキドキしてしまう。そんな自分の気持ちを持て余す八代だったが…。
という、高校生の話です。クラスメイトと言ってもタイプが違い、接点の無かったふたりが近づいたきっかけは「女装」! 八代は男が好きで女装しているわけではなく、ふとしたきっかけで女装をし、それ以来時々女装をして街に出たりしている。自分でもよく分からない快感が忘れられないでいます。誰かに声をかけられるわけでもないその行為を、何故かやめられない。こっそり、自分だけで楽しんでいたそんな楽しみが百瀬に知られてしまった事で、八代は自分が女装することで何を得ようとしていたのか、自分でも知らなかった欲求を知る事になります。
一方、百瀬の執着は端から見ても少し怖くて、こんな調子で迫られたら普通逃げだすのでは…というレベル。恋愛初心者の百瀬の感情は暴走しっぱなし。八代も最初はそんな百瀬の行動に引いているのですが、それと同時に、その強引さやまっすぐで熱すぎる言葉に心が揺さぶられています。そして、その揺らぐ心の奥に隠れているものを、八代は直視せざるを得なくなる。
この、八代の心理が変化していく過程がとても面白い…! それを受け入れるまで、八代の心は不安定な中でふわふわゆらゆら。その揺らぎをしっかり追いかけているので、ふたりの距離が近づく展開に説得力があります。八代に共感して一緒に不安になったり、百瀬に共感して八代の可愛さにムラムラしてみたり、話の雰囲気は割と静かなのに、読んでいて心休まる暇が無い。百瀬が八代に惚れていく過程はもちろん、八代が百瀬に堕ちていく過程が丁寧に描かれていて、じわじわと萌えが広がっていきます。八代の、気持ちがグラッと揺れて赤面する場面や、百瀬の「八代が好きで好きでたまらない」という顔もいいですね。ふたりとも自分と相手の気持ちに振り回されていてかわいいです。
プレイの一環ではなく本人の性癖として登場する女装ネタは多くありません。一般的ではないこんな趣味から始まる関係では、今回の話のように自分の中に隠れていた人には言えない欲望に葛藤したりする過程が重要になる事が多い。男同士というハードルに、こうした自分の内面を見つめる必要のある要素が加わる事で、さらに読み応えや説得力が深まるのではないでしょうか。もちろん、萌え要素としても美味しいと思います!
今回はもう1作品、そんな女装が重要なポイントとなっている作品を取り上げてみました。
■美しいこと(上下巻)/木原音瀬/日高ショーコ/Hollyノベルズ(2007-8年) 松岡洋介は、毎週金曜日密かに楽しんでいる趣味がある。別れた彼女の服を着たことから始まった「女装」という楽しみ。美人でスタイル抜群のいい女になり、いつものように街を歩いていた松岡だが、その日は勢いが過ぎて失敗してしまった。そこに偶然現れた?末基文は、松岡に傘と靴、そしてタクシー代を渡す。松岡はその優しさに心を動かされ、再び?末に会いに行くのだが…。
接する機会のない部署だが同じ会社で働くふたり。松岡とは女装姿の「江藤洋子」として会っているので、?末は松岡の正体に気付いていません。?末は、優しいけど要領が悪く上司に疎まれていて、決して格好いいわけではなく、垢抜けない地味な男。そんな男だけれど、松岡は「洋子」として?末と親しくなり、?末に好意を向けられているうちに放っておけなくなってしまう。ダメだと思いながらも、秘密を打ち明けることが出来ないまま二人は付き合うことに。意を決した松岡は、ついにい自分の正体を打ち明けるのですが…。優しい?末なら「どんな姿でも好きだよ」と言いそうなところですが、なかなか上手く事は運ばないのです。「洋子」に夢中だった?末は、「洋子」が男性だったことを受け入れられない。「好きだ」と追いかけられていたのに、いつの間にか松岡の方が必死で追いかける状況になっていきます。
出会いのきっかけは同じでも、相手の女装を受け入れるかどうか、そこが先ほど紹介した「宇田川町〜」とは異なります。女装している松岡だけでなく、それを示される側である?末の心理変化もしっかりと掘り下げられているので、とても読み応えのある作品になっています。
前半の「美しいこと」は松岡視点、後半の「愛しいこと」は?末視点で話が書かれていて、それぞれの葛藤が伝わってきます。「女装」というとイロモノ的臭いがしますが、実際はとてもプラトニックで純粋な恋愛小説でした。BLでは肉体関係が先行することも多いのですが、この作品ではそこに至るまでの精神的な部分が軸になっています。男同士だったらあって当然な葛藤を、綺麗事だけじゃない人間のエゴを織り交ぜて書いてくるあたりがさすが木原先生ですね。ドロドロとした感情は時に痛く、なかなか上手くいかない関係にやきもきさせられますが、乗り越えなければならないハードルを解決して結ばれているので、読後感は明るい作品でした。
萌え要素やイロモノネタにおさまらない「女装」ネタ、未体験の方は是非どうぞ!
紹介者プロフィール:にゃんこ長い冬眠期間を経て数年前に復活。内容はもちろん大切。でも萌えるHも大好物! 心躍る萌えを求め、腐海を彷徨う流浪の腐女子。 小説&コミックスを中心に、BLCD、BLゲームなども含めた感想をブログで書いていますので、そちらもよろしくお願いします! http://macnyanko.blog22.fc2.com/