新刊の中から、話題になっている作品、私のオススメ作品などをピックアップして紹介します。視点は少々(いや相当?)偏っていることもありますので、ご注意くださいませ。
 今回は、2009年4月の新刊から待ちに待っていた続編2作品をご紹介。
■ 唇にキス 舌の上に愛 -愛と混乱のレストラン3- /著者:高遠琉加/挿絵:麻生海/シャレード文庫(2009年) --あらすじ-- フレンチレストラン『ル・ジャルダン・デ・レーヴ』の復活のため奔走する若き支配人・鷺沼理人、29歳。
 鷺沼はシェフの久我と反発しあっていたが、レストランはなんとか軌道に乗り始め、ふたりの距離も次第に近づき始める。
 だがある日、過去の真実を知り不安定になっていた鷺沼を、久我は激情のまま抱いてしまう。
 そして失ったものの大きさを知る久我だが…。
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衝撃の場面でお預けになっていたレストランシリーズの完結編。
 フレンチレストラン『ル・ジャルダン・デ・レーヴ』で繰り広げられていた鷺沼と久我のぶつかり合いですが、次第に話は鷺沼の抱えていた傷に触れることとなります。
 朧気ながらも掴みかけていた鷺沼の心を、久我は自らの過ちで見失ってしまう。
 この最終刊では、鷺沼の心の修復を中心に、ふたりのその後が描かれています。 
 鷺沼がレストランに対して並々ならぬ執着を示すのは、過去のある体験が原因です。
 それは鷺沼にとって生きる理由みたいなものになっていて、弱い自分をいろんなもので武装して必死になっている。
 久我はそんな鷺沼の危うさを本能的に感じて、本人は無自覚だけど惹かれていきます。
 基本的にこの人は優しいんでしょうね。
 それを素直に表に出さないけれど。
 読み進めるほどにふたりが好きになっていきます。
 ツンとしているのに実は必死な鷺沼も、口は悪いけど実は優しくて不器用な久我も、そのアンバランスさがとても魅力的でした。
 壊れそうな強さにハラハラさせられたり、揺るぎない強さの中に弱さを垣間見たり、随所で人間くささが感じられるのがいいと思います。 
 久我と上司で恩人でもある叶によって一旦鷺沼は破壊されるのだけれど、それは鷺沼にとって必要なステップで、その後再構築されていくことでようやく前に進めるわけです。
 ゆっくりと時間をかけて、鷺沼の心が復活していく。
 その姿は痛々しくもどかしくもあるけれど、久我の言葉にもあるように、私も「しあわせになってほしい」という気持ちでいっぱいになりながら読みました。
 その過程で傷ついた人もいるのだけれど、新しい世界に踏み出すためには、決断しなければいけない事もあるんですよね…。
 「さよなら」が切ない。
 鷺沼は他人に頼ろうとしない人だけど、実際はたくさんの人に支えられている。
 ただの恋愛話じゃなくて、鷺沼が自分の鎧を脱ぎ捨て、居場所を見つけていく過程がしっかり掘り下げられていて読み応えがありました。 
 兎にも角にも、鷺沼が『ル・ジャルダン・デ・レーヴ』の料理を美味しいと感じられる日が来たことに、ホッと胸をなで下ろしました。
 久我と幸せになれた事ももちろんだけれど、それよりも鷺沼の目が未来に向いた事が何より嬉しい。
 胸が締め付けられるような痛さで泣かされたり、その先にあるあたたかさに優しい気持ちにさせられたり、良い意味で心が振り回される作品でした。
 面白かった。
 大満足です。  
■ 真空融接 春/著者:びっけ/B’s-Loveyコミックス(2009年) --あらすじ-- “供給者”または“補給者”という体質を人々が持っている某国では、パートナーとエネルギーを受け渡ししなければ生きていけない。
 そんな国で、同性のパートナーを持った男の子たちもいて…。
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「真空融接(上・下)」の続編です。
 エネルギーの受け渡し方法は唇の接触。
 つまり、生きるために毎日キスをするパートナーがいるのですが、パートナーは恋人とイコールではありません。
 そして、普通は男女なのだけれど、たまに同性同士でペアになっている人たちもいて、この話に登場するのはそんな同性ペアの3組のお話です。
 寮生活をしていたりして、全体的にはパブリックスクールのような雰囲気。
 男の子同士でキスはするけど、必ずしもその関係に恋愛感情が明確に描かれているわけではないので、BLと位置づけるかどうかは微妙かも知れません。
 この続編には男女のカップルも出て来ますし。
 でも、設定的には非日常的だけど、基本的な人と人とのコミュニケーションという所で読ませる話なので、BLじゃなくても読み応えがあります。
 普遍的なものを上手く特殊な設定に取り込んでいて、読んでいてすんなり感情移入が出来る。
 むしろ、こういう設定だからこそ軸となる部分が分かりやすく伝わるのかも。
 一見不便な体質だけれど、誰かにこんなに必要とされるってちょっと羨ましいなぁと思います。
 そして、みんな一生懸命で可愛い! 
 メインはラエルとアレクシ。
 他に、アレクシの父親フロランとそのパートナー・ジル、お互いにパートナーがいなくなったため途中からカップリングされたエリアスとキィル。
 既刊本ではこの3組の出会いや、アレクシが生まれる経緯が描かれていました。
 この続編では、その後の3組の話を中心に、他のカップルの話も収録されています。
 どれも友情以上恋愛未満(自覚がないだけとも言う)の微笑ましい話で、知らず知らずのうちにニコニコして読んでいました。
 どのキャラクターも可愛いんですが、私はツンデレキャラのアレクシがお気に入りです。
 突っ張った態度なんだけど、「ラエルじゃなきゃやだ!」っていう所がいい! 
 この話はとにかく可愛くて、いつの間にか心が奪われてしまいました。
 微笑ましいんだけれど、その中に切ない部分が隠れていたりする。
 疲れた心に効きます。
 オススメ!
紹介者プロフィール:にゃんこ長い冬眠期間を経て数年前に復活。内容はもちろん大切。でも萌えるHも大好物! 心躍る萌えを求め、腐海を彷徨う流浪の腐女子。 小説&コミックスを中心に、BLCD、BLゲームなども含めた感想をブログで書いていますので、そちらもよろしくお願いします! http://macnyanko.blog22.fc2.com/