鈴木佳人は過去の事件が元で心に深い傷を抱えていた。ある夏の日、佳人は唯一の安らぎの場である庭で、藤堂という男に出会う。男性的な力強さをもつ藤堂に怯えを抱きつつも、魅力的で真摯な態度に惹かれていく佳人だったが…。
健気な受け視点での展開が多い六青作品のなかで、珍しく攻めがぐるぐるしています。
しかし決してへたれている訳ではなく、男らしく誠意をもってぶつかりますが、受けはなかなか手強く何度も玉砕してしまうお話です。
成人男性に対して極度の対人恐怖を抱き外出することもままならず、兄の元にひっそりと身を寄せている主人公佳人。過去に何があったのかと謎解きのように物語は始まります。
兄のカウンセリングを受けるために訪れてくる藤堂と、ふとした切っ掛けで知り合った佳人。彼の魅力的で真摯な態度に畏怖を抱きながらも、なぜか彼に引かれていくのを自分でも不思議に思っています。
兄の庇護のもとで過ごすのは心地よいけど、兄を安心させるためにも早く自立したいと思う心もあり、対人恐怖症を克服したいと思うようになります。
藤堂のことが気になるけど、それでもどこか恐怖感を抱きますが、藤堂が誰かのものになるまえに、自分の物にしたいという気持ちも心も止められない佳人。
どうしようもない不安感にさいなまれながらも、藤堂と一線を越えようとしたときに、失われていた記憶がよみがえり、藤堂との辛い過去を思い出してしまいます。
過去を思い出したことで、目の前にいる優しい藤堂と、昔酷い仕打ちをした藤堂とどうしても一緒と思えない佳人。
しかし藤堂は、過去の過ちを謝り自分には佳人しかいないと思っていることをわかって欲しいと誠心誠意つくしますが、藤堂に優しくされればされるほど、記憶にある過去の藤堂と、現在の藤堂とのギャップに、佳人は無意識に別人だと思いこもうとします。
佳人が普通に接することができるのは、最近知り合った優しい藤堂さんであったのです。
過去の自分を許して受け入れて欲しいと思っている藤堂の思いは、いつまでも佳人に届きません。それほど過去の藤堂に対して根強い不信感を抱いているのです。
ほんの偶然で、藤堂が佳人を傷つけたときと同じ状況になり過去をなぞることで、藤堂はやっと佳人に誠意をしめし、佳人も藤堂を信じ許すことができ、やっとたどり着いた甘いラスト4ページ。
苦難の末にやっとたどり着いた「至福の庭」というタイトル通りのラストに、読者はほっと胸をなで下ろすことでしょう。
紹介者プロフィール:はる木原音瀬、榎田尤利の小説をこよなく愛するお年頃の主婦。運動不足解消を目指すべく犬の散歩にせっせと歩いているが、考えているのはBLの事。 精神的な痛みが伝わる描写に激しくもだえる“精神的”鬼畜な性格。バッドエンド、死別、カップルになれないまますれ違って終わる作品がもっとあってもいいじゃないか!とハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。