BL情報サイト ちるちる

BLニュース

BLニュースは標準ブラウザ非対応となりました。Google Chromeなど別のブラウザからご覧ください。

狂気のような愛の深さに、ただただ圧倒される 木原先生、私たちをどこへ連れて行くの? 『WELL』

2008/05/16 00:00

ある日突然すべての建物が崩れ、多くの人間が死に、地上は真っ白な砂漠に変わった。そして生き残った少数の人間たちには、過酷な現実が待っていた...。地下にいたせいで助かった亮介と幼馴染みのしのぶは、食料もなく、飢餓状態に陥りながら死を待つように生きていた。「亮ちゃんが一緒ならいい」と言うしのぶに、死にたくない亮介は苛立つが...。

木原音瀬という作家は、偉大な作家であるというしかない。どの作品も深く、単あるBLの枠に収まらない作品なのにBLというジャンルに身を浸し、男同士の愛について書きつづけてくださる偉大な作家であります。どの作品も、深く読みごたえがありますが、異色なのが、この「WELL」。これが出版されたとき、果たしてこれがBLなのかと、読者は大いに頭を悩まされました。男同士の愛を扱うのがBLであるというくくりであれば、BLと言えないはずはないのです。
しかし、甘い愛、せつない愛をうたった毎月大量に出版されるBL書籍とはまったく異なる、どろどろした人間の汚さ不実さをえぐり出し読者に突きつけるようなおそろしい作品だからです。
ある日突然世界が崩壊してしまいますが、主人公亮介と使用人の子しのぶは、たまたま地下街にいたため生き残ります。建物はすべて崩壊し、白い砂だけの世界。地上部分にあった建物はすべて白い砂と化しているので、食べ物もなにもないのです。
足に怪我をして動けない亮介は、何でもいいから食料を取ってこいと命令し炎天下の砂漠にしのぶを追い出します。
そして亮介のために殺人を犯しパンをうばいとってくるしのぶ。
おいつめられた状況が淡々と描写され、まるで楳図かずお「漂流教室」です。
食料も水もない誰も助けに来ない閉塞感にみちた世界。
そんな過酷な状況のなか、亮介を生かすためにどんな手段をとっても生きのびるという選択をしたしのぶ。
後半書き下ろし作品「HOPE」では、消極的な集団自殺をくわだてていた偽善的なリーダー田村にしのぶが、亮介を生かすためなら盗みも、殺人もなんとも思わないと言い放ち、その力強さに田村が打ち砕かれるというシーンがあります。
善悪のルールは世界と共に崩壊しているので、罪悪感を感じないというしのぶ。亮介を生かすという命題のために行われるすべてのこと、それが殺人であってもカニバリズムであっても、しのぶのなかで肯定され許されてしまうのです。
生きていくために必要な愛。人類が最後の一人になってでも亮介を生かし続けようとするだろうしのぶの狂気のような愛の深さに、ただただ圧倒されます。
そんな悲惨なストーリーなのに、木原先生の筆力によって、最後まで読者はページをとじることはできず、読後は暴風雨にさらされもみくちゃになったような気分をあじわうこととなるのです。

紹介者プロフィール:はる
木原音瀬、榎田尤利の小説をこよなく愛するお年頃の主婦。運動不足解消を目指すべく犬の散歩にせっせと歩いているが、考えているのはBLの事。 精神的な痛みが伝わる描写に激しくもだえる“精神的”鬼畜な性格。バッドエンド、死別、カップルになれないまますれ違って終わる作品がもっとあってもいいじゃないか!とハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。

関連作家・声優

コメント1

投稿順 | 最新順

匿名1番さん(1/1)

>甘い愛、せつない愛をうたった毎月大量に出版されるBL書籍とはまったく異なる、どろどろした人間の汚さ不実さをえぐり出し読者に突きつけるようなおそろしい作品

今まさに読み終えました。上の部分めちゃくちゃ共感。
あと私は、楳図かずお「漂流教室」を読んだことがなく、なんだか面白そ。

>ハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。

ハッピーエンド大好き。でも最初から最後まで甘々な小説よりも、ドロドロだったり、痛々しかったり、しんどい思いを経てのハッピーエンドが好みです。
六星みつみ先生好きです。真瀬もと先生初めて知りました。読んでみよっと。

アクセスランキング

最新BLニュース

オススメニュース

最新のコメント

PAGE TOP