ゆくエモくるエモ 心が洗われる禊系7作品毎年何かと用事が立て込み、慌ただしく過ごしがちな年末年始。切ないことに、やっと一息ついた頃にはもうお正月休みも残り僅か…なんてことも珍しくありませんよね。
とはいえ、せっかくならスッキリと澄み切った気持ちで新たな一年のスタートを切りたいところ。ということで、今回は読み終わったあとその作品のことしか考えられなくなり
心の中から余計な感情が一切消え去ってしまうような不思議な魅力を持った作品たちを福袋として詰め合わせてみました。
知ってしまった、知りたいと願ってしまった、彼の秘密。『新装版 Nobody Knows』SHOOWA人間そっくりの人形をメンテナンスする仕事に就いたモドルと、その同僚・ススムの物語。二人は「互いの身の上について余計な詮索はしない」という適度な距離感を保っていましたが、ある日ススムの抱える大きな秘密を知ってしまったことから、モドルは「詮索はしない」と思いながらもススムという存在へ踏み込みたいと願うようになっていきます。
ページ数が多くないからこその静かなインパクトがあり、読後は常に「ふう…」と溜め息を吐いてしまいます。ページを閉じてからも暫くはモドルとススムのことしか考えられなくなるという強い力を持った作品。新装版の表紙に描かれた二人の表情も秀逸!
読んだ者の語彙力を無に帰すリーサルウェポン『彼が眼鏡を外すとき』麻生ミツ晃二組のカップルのお話が収録されていますが、それぞれのストーリーがリンクしているので一冊丸ごと同じ世界観で楽しむことができます。一太と賢次の兄弟を軸に、高校生男子の揺れ動く切ない恋心が描かれています。
注目なのは、一太に惹かれている巴と、そんな巴に想いを寄せる賢次の物語である表題作。巴の気持ちに気付いている賢次が、兄である一太のかわりになりたいと願う、その切なさはもう言葉にできません。勢い余って脳内で小田○正が絶唱するレベルです。とにかく作中の言葉のひとつひとつにノックアウトされ、読み終えた時、心の中にはただただじんわりとしたあたたかさのみが残っています。
「生きること」と「息をすること」は似ているようできっと違う『猫、22歳』柳沢ゆきお表題作は、叔父と甥の、奇妙だけれどとても美しい愛の物語。一人ひっそりと暮らすポルノ小説家の昇平は、突如「猫になってしまった」甥の志朗を預かることになります。「愛する人と共に在ること」。それこそが志朗にとっての生きるということであり、それは誰にも邪魔できないことなのだという強い想いに心を動かされました。
同時収録作である『皿の上の明くる日。』も非常に印象的です。描かれているのは、殺人犯×ゲイの教師という異色のカップリング。凶悪犯としてニュースで報道されている殺人犯が、自分にとってはとても優しい人だったとしたら…。普段は心の底に沈んでいるような感情を呼び起こされる作品です。
モノローグという名の散弾銃を乱れ撃ち『蛇崩、交差点で』藤たまき複雑な家庭事情を抱えた円(まどか)と、円に10年来の片想いをしている龍一の恋の物語。龍一はお金持ちの家に生まれた世間知らずの所謂お坊ちゃんで、円はそんな龍一に対し自身の境遇の差や気持ちの擦れ違いを感じ、二人は何度も何度も近付いては離れてを繰り返します。時の流れによって変わっていくものと、それでも変わらずにひたむきに円を想い続ける龍一の対比が印象的です。
また、随所に散りばめられたモノローグがすこぶる美しく、記者はもう何度藤たまき先生の言葉に殺されたか分かりません。例えるなら暴力的な詩集、とにかく揺さぶられます。
分かりたい、分かり合えない、それでも隣に『夜はともだち』井戸ぎほう近年作品の主題として扱われることが多くなった「SM」が題材のお話ではあるのですが、そうしたテーマを飛び越えて、「一人の人間と一人の人間が分かり合うことの難しさ」や「それでも一緒にいたいと思う気持ち」について考えさせられる一冊。「痛めつける」というプレイを通して距離を縮めていく二人の心の交流、そしてその先に見えるものは一体何なのか…是非実際に読んで体験して頂きたい作品です。
記者も何度も読み返していますが、毎回気持ちが高まってしまい幼児のような言葉しか喋れなくなってしまいます。圧倒的な作品を前にすると人類はいとも簡単に退行してしまうのだということを身を以って学びました。
萌えから流れる涙は透明『 ドッガール』天禅桃子高校生同士の恋愛という王道!なテーマなのですが、攻めが重めの家庭事情を抱えて留年していたりと、一筋縄ではいかない本作。語彙の少なさ故に「とにかく」を連呼していて非常にお恥ずかしいのですが、とにかくカップルの二人が互いを自分の人生における唯一の光として大事にしているという点が素晴らしいの一言に尽きます。
イケメン年上×年下眼鏡という萌えもしっかりカバーしつつ、若者二人がもがいて前に進んでいく様子に涙が止まりません。BLならではの胸キュンとストーリーの重みのバランスが絶妙!
人生の教科書になり得るBL『23:45』緒花幽霊×地味なオタクという一風変わったカップリングが楽しめる本作。受けの落とした同人誌を幽霊である攻めが届けてくれるというパンチのある始まりながら、ストーリーは非常に綿密で、設定を余すところなく活かした展開にあっという間に惹き込まれてしまいました。
記者はモノローグ大好き人間なので繰り返しになりますが、こちらの作品もモノローグがとても効果的に盛り込まれ、ここぞという場面で作品を盛り上げています。テキスト量は多めですが、その分読み応えも満載です!
以上、心が洗われるエモ系BL7作品をご紹介しました。
気になるお値段はというと、7冊合わせてズバリ5017円。福袋としては全く割引になっていませんが、ピッタリ賞は狙えそうな結果となりました。
新たな年の始まりに、雑念を振り払ってくれるBL、いかがですか?
記者:星野