【第5回：小杜蕗シンジ『青く清く』】ひたむきな恋心に魂を洗われる
【今夜は眠れない感動BL】第5回は、前回までとは趣向を変えて、記者イチオシの作品について特集させて頂きます。
今回ご紹介するのは、今年4月に発売された小杜蕗シンジ先生のコミック
『青く清く』。高校生二人の関係が「友達」から「恋人」へと移り変わってゆく過程を丁寧に描いた小杜蕗シンジ先生のファーストコミックスです。
【あらすじ】杉野夏季、17歳、高校二年。柏原 秋、16歳、高校一年。
学年はひとつ違っても気の合ういい友達のはずだった。寝ている夏季に秋がキスするまでは…。
男同士のそういう関係を嫌悪する夏季は、告白してきた秋を激しく拒絶してしまう。でも、もともとは大好きな友達──
いっしょにいたい。だけど、恋人にはなれない。そう思っていたけれど…。
「友人」と「恋人」の境目って、一体どうやって決まるのでしょうか。誰が決めるのでしょうか。「異性間の純粋な友情は成り立たない」なんて言われたりもしますが、そもそも関係性に名前をつけるのにはどんな意味があるのでしょうか。
『青く清く』は、高校生の二人がそんな問いに思い悩みながらも、手探りで二人の関係性の着地点を見つけていくお話です。
眉目秀麗で穏やかな高校一年生の秋と、元気一杯な一つ年上の夏季。夏季は秋のことを他の誰よりも気の合う友人だと思っていますが、秋は夏季に対してずっと友情を越えた恋心を抱いていました。しかし、夏季は過去のトラウマから男性同士の行為に激しい抵抗を抱いていて、秋の気持ちも受け入れることができません。
自分たちの関係をどう変化させていけばいいのか、自分は相手とどうなりたいのか――二人はそれぞれに葛藤し、触れたら壊れてしまいそうな関係性のまま、近づいたり離れたりを繰り返します。
本作の魅力は、小杜蕗先生の薄く淡い絵柄と作品の持つ優しい雰囲気。キャラクターの顔つきは高校生というよりは中学生に近いと言えるほど幼めなのですが、それがまたふんわりとした作品の空気感を形作っています。
背景も繊細で、秋の住む家の洋風庭園の描写など、現代日本のお話にも関わらずどこか浮世離れした魅力を感じました。教室で眠る夏季の首筋に口づける秋のいじらしい姿が印象的な、白く澄んだ表紙にも惚れ惚れします。
「幼馴染」「親友」といえばBL界の鉄板とも言える設定。もちろん、親友同士ならではの距離感も本作の大きな魅力のうちのひとつですが、『青く清く』はそのシチュエーションの枠を飛び越えた力を持っている作品だと思います。
自分ではどうにもできない気持ちへの葛藤や、恋をしている相手に対してだからこそ抱いてしまう身勝手さ。そうした感情と向き合いながらもがく少年たちの成長物語としても完成度が高いお話に仕上がっていると感じます。
繊細で優しいのに、その柔らかさが胸に痛い。しっかりとページ数を重ねて描かれているからこそ、長編映画を見たかのような読後感を味わうことができる一作です。2016年のBL納めのお供にぜひ。
記者：星野
