退廃的で脆く、それでいて強かな美青年 夏のお供にいかがですか?角川書店より6月30日に発売された海猫沢めろん先生の小説
『夏の方舟』。
性別を越え人を魅了する美しい青年・黒坂聖と、聖を巡る様々な男達の姿を描いた本作は、一般読者だけでなく腐女子の間でもTwitterなどで密かに話題になっています。
『夏の方舟』内容紹介
「わかりませんか。僕ですよ。久しぶりですね先輩」
かつてのクラスメートの男子は、ある夏、妖艶な女となって、突然、島に帰ってきた。
男たちに苦悩を呼び起こし、欲望にもだえさせるために。
瀬戸内海のある島に一人暮らしをしている水無月陸は、地域振興の一環として島巡りのガイドシステムを開発している。あるとき、港から続く道で、女性と見まがう男と出会う。彼の名は黒坂聖(せい)。かつてのクラスメートだった……その瞬間から陸の中に、苦い過去の記憶がよみがえり、淫靡な欲望が芽生え始める。 (「水のかげふみ」)。
同僚と訪れた秘密クラブでは、毎週金曜日に過激なSMショーが繰り広げられていた。男はその異常な空間の中で、ある女に似た美しい男「S」にのめり込んで いく……(「サロメのいない金曜日」)ほか、一人の美しい男を巡る、淫靡で狂おしい葛藤劇。奇才・海猫沢めろんが描く、限りなく透明でj純粋な欲望の行く着く 先。そこは楽園か、絶望か…。
本作について、海猫沢先生は
自身のブログにて
「恋愛ものですが、女性がほとんど出てきません。かといって最近の主流っぽいBLではないかも知れません。イメージとしては昔ぼくが好きだったJUNE系のものに近いと思います。」と語っています。
また、自身がかつてJUNEの愛読者であったことや木原音瀬先生の
『箱の中』に影響を受け本作を執筆するに至ったという経緯なども記されており、『夏の方舟』は先生曰く
「栗本薫イズムが香るJUNEルネッサンス!」であるとのこと。
実際に記者も読んでみたのですが、全体的に薄暗く陰鬱とした影の中に不意に一筋の細い光が差し込むような、少し読み手を選ぶ物語だなと感じました。作中のどこに光を見るのか、それも読む人によって異なると思います。
本作のキーパーソンである美青年・黒坂聖は、男性までも惑わす中性的で線の細い美の持ち主として登場しますが、それでいて作中の誰よりも強かでまっすぐな人間。自身の性別を軽々と飛び越え、男に抱かれることもあれば、さらに自身が男を抱くこともある、そんな柔軟さと強さをもった青年として描かれています。
『夏の方舟』は4編の短編からなるオムニバス形式で、収録作である『サロメのいない金曜日』をはじめ少々過激なSM描写やグロテスクなシーンもあるので、そうした描写が苦手な方はご注意を!
まだまだ夏は始まったばかり。今年の夏を泳ぐお供に、新たなJUNE系作品はいかがでしょうか。
記者:星野
コメント1
匿名1番さん(1/1)
遅ればせながら読んできました。
温帯ファンの自分から言わせてもらえば、栗本薫イズムではないですね。
温帯をはじめ腐女子って結局耽美は書いててもまともな側の人じゃないですか。
温帯も不倫はしたけどそれくらいで、お嬢様学校で文芸部やってた文学少女がそのまま大人になっちゃった感じ。
乱歩だって早稲田卒だし自分が薬やってたわけでもなく、妻も普通にいる大人文学少年型。
一方でこの方、なんと元ホスト!
同時収録作がSMクラブの話なんですが、アングラSM描写が本当に迫力があって怖い……。
あと男の方の書いたゲイ小説だから、「性別不詳の」性悪がよく出てきます。
ちょっとヤオイとは毛色の違いを感じました。エロシーンは一般書にしてはあります。
評価としては中立です、ハマる人はハマるかなといったところ。