編集者の山本文子さんに逆インタビュー!小説ファンマガジン
『かつくら』編集部が手掛ける、ボーイズラブインタビュー集『あの頃のBLの話をしよう』が7月1日発売されました。
「ボーイズラブ」が少女マンガや少年マンガのように一つのジャンルとして確立されている現在。毎月たくさんのレーベルからたくさんの新刊が発売され、最近はテレビ番組で特集を組まれることもしばしば。今でこそ当たり前に存在している「BL」ですが、「ボーイズラブ」という言葉さえない時代もありました。今私たち が日々萌えのある生活を送れているのは、初期を駆け抜けた作家さん・編集さんのお蔭です。
「BLがあって当たり前」でない時代のことを知る
先日東京カルチャーカルチャーで開催された『BL進化論ナイト』にも登壇された山本文子さんは、編集にかかわったひとりです。
山本さん曰く、本書は
“歴史書”ではなく“インタビュー集”。昔のBLというジャンルはどんな雰囲気だったか、当時現場に立っていた人たちのことがわかる本を作りたい、と思ったことが本書を制作するきっかけのひとつだったそうです。
そして、その時代にどんな作品が生まれたのかをもっと多くの人に知って興味を持って欲しいともお話しされていました。
本書では、BLの礎を築いたキーパーソンたちが時間の経った今だからこそ話せる「黎明期をどう感じていたか」という生の声が記されています。その頃、漫画情報誌 「ぱふ」の編集者としてボーイズラブの最前線を見つめていた山本さん。『あの頃のBLの話をしよう』を出版しようとした経緯を尋ねてみました。
二次パロからの流れにアプローチBLの起源を考えるとき、JUNEからの流れを一般的に取り上げますが山本さんはこう語ります。
「森茉莉さんの小説やJUNEからの流れは語られることは多いのですが、二次パロから入ってきた流れがあらためて取り上げられていることは少ないんですね。そこでそれができればいいなと」「当時、JUNEというのは書く方も読む方も理由がいるジャンルだったように思うのですが、もっとライトにそういうものを楽しみたい層の行き場が、二次パロだったのではないか、と」そこでその当時のキーパーソンとしてお話を聞いたのが
作家陣:
よしながふみ先生、
こだか和麻先生、
松岡なつき先生
編集陣:元『イマージュ』編集長・
霜月りつさん(「BL」という言葉を世に送り出した)、『MAGAZINE BE×BOY』初代編集長である株式会社リブレ代表取締役・
太田歳子さん
です。
松岡なつき先生に二次パロ時代の話をたっぷり聞くインタビュー記事は、今回が初めてではないかということで非常に貴重です。
「どの方にもひとつの時代、ひとつのジャンルについて絞って話を聞いたのは初めてだったので、これまで何回もお話を聞いている方でも『こんな話、初めて聞いた』と新鮮な驚きがありました。『今だから聞ける、今だから話せる』ということがあるんだと思います。今回はかなり突っ込んで聞けましたね」とこれまでのインタビューの中で相当濃い内容になったようですね。
本書には、その当時作家さんが何を考えて創作活動をしていたか、貴重な生の声が詰まっているわけです。
当時と今2000年代まで出版されたBLはほぼ追いかけていたという山本さん。出版数の増加にともない、さすがにそれも難しくなってきたといいます。増え続けるBL。ユーザーと作り手に変化はあったのでしょうか。
「昔は、まだ作品数が少なかったので、こういうものが読みたいっと思ったらこれ、というように選択肢がわかりやすいところがありました。でも最近は選ぶのもひと苦労ですよね」読み手としては昔に比べて選択肢が広がりましたが、それだけ自分好みを見つけるのが難しくなったということでしょう。
「BLが上げ潮調子の頃は、作家さんたちは好きなものを好きに生み出しているような自由さが感じられた気がします。今は本の売れにくい時代といわれていますから、その分、作り手も編集サイドもより読者のニーズに合うものを、という意識が強くなっているのではないでしょうか」と違いを語る山本さん。以前より作り手は気を使いながらの制作になっているようです。
しかし表現手法、環境は変わっても
「萌えはなくならない! このジャンルがなくなると思っている人はいないでしょう。BLはある意味ストライクゾーンが広くて、男×男という主題があればどんな味付けをしようが誰かしらに楽しんでもらえるジャンル。他のジャンルより読者離れは少ないのではないでしょうか」と山本さんは力強く断言されました。
当時のことはもちろんこれからのBLについてもインタビュイーたちが語っているとのこと。本書を読んでBLの過去・未来についてじっくり考えてみるのも楽しいかもしれません。
個人的には、本書を読むことで先輩腐女子からよく聞く
「大型書店の一角にひっそりと置いてあるキャプテン翼(もしくは鎧伝サムライトルーパー)のアニパロ本を買ったときの感動が凄まじかった」という、当時のBLの貴重さをもっと知れるのではないかとワクワクしています(笑)。
表紙イラストを担当したのは
ナツメカズキ先生です。貴重なカバー候補イラストも収録され、読み応え充分ですよ♪
萌えよりも描きたいもの筆者が山本さんのお話の中で一番印象に残ったのは、
四半世紀近く前のBLは文法がまだできていなかったため、作品において
「萌え」よりも「作家さんの描きたいもの」が全面に出ているエネルギッシュな作品が多かった、ということ です。根本は変わっていないけれど、現代とは違う表現方法で各々がBLへの愛を作品にぶつけていた時代にロマンを感じます。
また、90年代のBLというとJUNEのような耽美な作品を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、
本書は当時の「アニパロ派」に焦点を当てている画期的な書です。JUNEに比べるとあまり当時の情報がないアニパロ派のことを知れる、かつてない1冊となっています。
そして約10年前に山本さんが出版されたこちらもオススメです!
『やっぱりボーイズラブが好き~完全BLコミックガイド』
200タイトルを超えるBLの名作・傑作・オススメ作品レビューのほか、BL用語やヒストリーを解説した基礎講座、BL大好きさんたちの覆面座談会、対談、イラスト、コラムなどが満載な腐女子必読の1冊です。
筆者も愛読中。素敵な作品に出会えますよ☆
当時を経験した人は懐かしめる、知らない人は新たな発見・出会いがある1冊です。
ボーイズラブインタビュー集『あの頃のBLの話をしよう』あらすじ
熱に浮かされたようにBLを書き、作り、読んでいた私たち――ボーイズラブという言葉が生まれたあの頃。
激変する業界の渦中にあった作家・編集者が語る、それぞれのBLファーストインパクト!
いまや当たりまえのように存在しているBLというジャンルにも先行きなど何もわからなかった幼年期があり、作り手も受け手も熱に浮かされたように駆け続けた時期があった。
あの頃、作家はどのような衝撃を受け、あるいは情熱を持ってBLを創作したのか。編集者は創作者や読者の思いをどうやって受け止めたのか。
稀有な作品を生み出し、他ジャンルでも活躍する才能を多く輩出するまでになったBLというジャンルの黎明期を、渦中にあった作家、編集者が語りつくすBLインタビュー集!
インタビュー:よしながふみ、こだか和麻、松岡なつき、霜月りつ(元『イマージュ』編集長)
太田歳子(『MAGAZINE BE×BOY』初代編集長)
コラム:三崎尚人(同人誌生活文化総合研究所) 高狩高志(覆面書店員)
記者 真島ノ畔
コメント2
匿名1番さん(1/1)
そうそう、本屋の角にひっそりと置いてあったサムライトルーパーのアンソロジーから私の腐った歴史は始まったw松岡なつき先生も富樫ゆいかのPNでトルーパー同人誌を発行されていた頃からのファンです。
今はとても恵まれてていいけど、昔も良かったよ。
匿名2番さん(1/1)
昔は腐女子の数も少なくネットも普及しておらず、だからこそおおっぴらにやれた部分もありました。今でこそタブー感の強いナマモノとか、ちょっと検索したらすぐ出てくるぐらいでした(笑)。