新刊の中から、話題になっている作品、私のオススメ作品などをピックアップして紹介します。視点は少々(いや相当?)偏っていることもありますので、ご注意くださいませ?。
今回は、2012年5月の新刊からこちらの2作品を紹介したいと思います。
■ まばたきを三回/凪良ゆう/円陣闇丸/ショコラ文庫 両親を事故で亡くし、窯元が多く集まる山間の町で祖父と暮らしている小学生の斎藤一佳は、静養のために東京から転校してきた四ノ宮令と出会った。身体が弱くきつい性格の令は、家庭環境もあってなかなか周囲と馴染めずにいたが、一佳はそんな令がずっと気になっていた。ある事故をきっかけにふたりは急速に親しくなり、一佳の令に対する特別な想いはどんどん膨らむばかり。令が東京に戻ったあとも続いていたふたりの関係は、高校生の夏休み、ついに友達から恋人へ変わる。しかし、高校卒業後、令は不慮の事故で亡くなってしまう。2年後、一佳は幽霊になった令と再会するのだが…。
亡くなった恋人の幽霊と出会う青年の話です。
田舎で経済的に決して楽ではない暮らしをしている一佳と、大きなグループ会社の御曹司である令の住む世界は大きく違います。
学生時代はある程度自由があり付き合う事も可能だったけれど、将来に明るい見通しは全くありません。
それでも共に生きるため起こした行動の直後、不慮の事故で令を失ってしまった一佳は、その後ポッカリと心に穴が開いたまま生きています。
しかしそれから2年経ったある日、令は幽霊になって一佳の前に現れる。
姿は見えて、会話も出来るけれど、触れることは出来ない恋人。
一佳は令と共に暮らし始めますが、しばらくすると不思議な出来事が起こるようになり、「自分と一緒にいるせいだ」と言って令は姿を消してしまう。
その後、一佳は自分たちの置かれた状況を知り、ショックを受けながらも打開するために令と共に動き出します。
プロローグの時点で既に令が亡くなっていて、幽霊となって再会するところから始まっている事も吃驚ですが、その後どんでん返しが何度も起こる展開にさらに吃驚。
本編は一佳視点なので、新しい事態に遭遇する度に「何が真実なのだろう?」と、読み手も一緒に戸惑わされます。
令が幽霊になっているので、手放しで喜べるようなハッピーエンドを迎えるのはコメディ展開しない限り無理なのでは?という不安が頭から離れません。映画「ゴースト」然り。
ティッシュを用意し、泣かされる覚悟はしっかりして望みました。
その後の展開について詳細は伏せますが、ファンタジーだけどしっかり現実を絡めた凪良先生の力に脱帽。
案の定泣かされましたが、思いがけない経緯で泣かされた。
凪良先生は毎回タイトルが素敵ですね。
今回もタイトルの由来にハッとさせられました。
後半に収録されているのは、その後のふたりのエピソード。
令の従兄弟・山背がふたりの前に現れますが、彼が何をどうしたいのか、どこに話が向かっているのか序盤は分からずまたしても戸惑わされます。
途中で山背の正体には予想がつきますが、そこからの展開がまたしてもやられた感いっぱい。そう繋がるのか!と目から鱗が落ちました。
今自分がこうして生きているのは様々な幸運が重なった結果なのだと感じることは何度もありますが、その幸運がこの先も続くかどうかは誰にも分からず、ある日突然終わりが来ても不思議じゃない。
それはもうどうすることも出来ない、大きな流れの中の一部なのだと私は思います。
その流れの上でどう生きていくのか。
この話の最後の数ページは言葉のひとつひとつが重く、そこに込められたメッセージがすごく伝わってきました。
幽霊モノと言っても、ラブコメではありません。
幽霊とやりとりしていたりするにも関わらず、ファンタジーの印象より人間ドラマ的な印象に強く、考えさせられる事が多くて何度も泣かされました。
予想外の展開をするのでドキドキワクワクハラハラさせられっぱなし。
テーマはシリアスですが、幽霊のコミカルなエピソードがあるので、重くなりすぎず読みやすい作品です。
円陣先生の挿絵もピッタリですね!
作品を充分に楽しむ為に、挿絵や文章のチラ見をしないことをオススメします。
■ ギブズ/山中ヒコ/Dear+コミックス 殺されかけたところをヤクザの原田という男に助けられ、匿われている田中始。記憶を失ってしまった始は原田に事情を説明される、何も思い出せない。そんな始に原田は肉体関係を強要し、「好きだ」と告げる。身を隠し原田のマンションで暮らしを続けていた始は、生活に馴染んでいく一方で次第に原田の行動に疑問を持ち始め…。
という、ヤクザ&記憶喪失もの。
始が記憶を失っているので、過去の事は原田の口から語られる意外に情報がほとんどありません。
原田によると、原田にとって始は同じ暴力団に属する先輩ヤクザで、組長の失態により狙われた結果土に埋められていたのだと言う。
そんな事情に加え、原田にその後も肉体関係を強要されている状況なのにも関わらず、元々の性格がポジティブな始は腐らず、割と早い段階で受け入れています。
でも、何も思い出せない状態は、始に不安も感じさせている。
一緒に生活する中で、始は原田を信用するようになっていくのですが、実は原田は真実を始に伝えていません。
始が記憶を失ったことで手に入れた関係を失ってしまうから。
その辺りの説明が詳細に語られているわけではないので、1度読むだけでは本来の人間関係や感情を汲み取ることが難しいかもしれません。
ヒコ先生の作品は、セリフの行間や表情を読み取る事で新しい発見をする事がよくあり、この作品も読み返すたびにどんどん味が出てきます。
素直じゃない原田の気持ちを知るにつれ、始の言動に納得がいく。
誰に対しても「ギブアンドテイク」で損得勘定が当たり前だった原田ですが、始に対しては違います。
記憶喪失というリセットの機会がなかったら得られなかった心の変化は、原田だけじゃなく始の中にもあり、そんなふたりの様子がとてもよかったです。
シンプルではない複雑な形の愛情を抱えていこうとするふたりが愛おしい。
シリアスだけど重くなりすぎない、この独特の雰囲気がヒコ先生の魅力だと思います。
是非、2度3度と読み返し、その魅力を存分に味わってください!
紹介者プロフィール:にゃんこ長い冬眠期間を経て数年前に復活。内容はもちろん大切。でも萌えるHも大好物! 心躍る萌えを求め、腐海を彷徨う流浪の腐女子。 小説&コミックスを中心に、BLCD、BLゲームなども含めた感想をブログで書いていますので、そちらもよろしくお願いします! http://macnyanko.blog22.fc2.com/