「桜荘」の管理人・明が飼いはじめたコウモリは…実は吸血鬼だった。その魔物は、明の血の味が忘れられず、強引に桜荘に住みついてしまうのだ。明と超絶美形な俺様吸血鬼・エディ、そして、魔物ハンターのチャーリーや退魔師の聖涼も加わって繰り広げるハチャメチャラブコメディ。たっぷり笑った後は、ほろりとさせる笑いと涙の配分が絶妙すぎるシリーズです。蔵王大志の描くキュートなイラストも必見。
小説のストーリーは日常にしっかりと根ざした現実的な話ももちろん好きだが、どこか非現実的で、夢のあるファンタジーものも、私は子どものころから大好きだった。それはBLのジャンルにあってもそれはあまり変わらず、あらすじにそれらしき文章を見かけると知らずに気持ちが動いてしまう。
ファンタジーの醍醐味は現実ではありえない夢のような世界を物語の中で体験できる事ではないだろうか、同ジャンルの中でも「吸血鬼」だの「輪廻転生」だの所謂、人外と人間との組み合わせや、生まれ変わって尚同じ人間を好きになってしまうと言ったフレーズに弱い。
BLでも吸血鬼を取り扱った作品は多いと思うが、私がその中でも一番のお気に入りと言うべき作品がプラチナ文庫から出ている高月まつりさんの書いた「伯爵様シリーズ」だ。
この本と私が出合ったのは、ブログでBL作品の感想を書き初めて間もないころだ。当時日参していたBL書評ブログさんでこの作品が紹介されていた。
「こうもり姿のエディが可愛い!!」
このたった一言に思わずつられてしまったのだ。もちろん既に4冊でていたシリーズものを一気に買ったのはそれだけが理由ではない、当時BL界に飛び込んだばかりで右も左もわからないひよっこだった私にとって、そのブログ管理人さんは指南役も同然だった、そこで面白いと書かれていた本はたいてい私にもあたりであったものだから、彼女が面白いと言っている、その本に興味がわいた、しかも内容はファンタジーで吸血鬼ものなのだから尚更だろう。
この本をまだ一度も読んだ事がない人のために内容を簡単に説明しておこう。
年季の入った外観と、寺の敷地ないに立てられていることから、近所の子どもたちに「お化け荘」とよばれているアパート「桜荘」の管理人比乃坂明(ひのさかあきら)、そんな彼の部屋にある日1匹のコウモリが迷い込んでくる。
外に逃がそうとするもののなぜか部屋に舞い戻り、いつの間にか居ついてしまった。コウモリの世話をする事になった明だが、実はそのコウモリはエディ・クレイヴンという由緒ある吸血鬼、コウモリは彼の仮の姿だったのだ。
極上の血を持つとエディが言う明はその後、なぜかその吸血鬼と同居する事になり、さまざまな事件に巻き込まれていく・・・。
吸血鬼物と言うとどことなくストーリー的に暗い影を負ったシリアステイストの話しが多いような気がするのだけれど、このお話の内容はどちらかと言うよコメディタッチ、暗いお話が苦手と言う人にも比較的入りやすい内容だと思う。
しかし、ただ明るく笑って読める話だけでは終わらないところが、この本の良いところでもある。最初は捕食するものとされるものと言うラブには程遠い間柄だった二人だが、相手が人ならざるものであるゆえの事件に巻き込まれ、それをクリアしていくたびに深まる信頼と愛情あふれるストーリーは時に読むものをホロリとさせてもくれるのだ。
好きになった相手が男でしかも吸血鬼。それ故、相手をただ好きだと言うだけでは容易に超えられない苦渋の選択を明は強いられる事になる。吸血鬼である事を選べば、この先もエディと一緒に長い人生を送れるけれども、そうすると友人や人間として送る普通の生活を捨てなければいけなくなる二つの選択肢の間で悩む明を余計な事は何も言わずただ見守り続けるエディの想い。
お互いを想いあうゆえに築かれる深い信頼関係こそ絆と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。
本編だけで4冊もあるので読み応えとしてもたっぷりで内容的にも過不足なく申し分無い。その後発売された愛蔵版とも言うべき5冊目の「伯爵様よりスペシャルな愛を込めて」ではその後の明とエディの姿や桜荘に住むおかしな住人たちのエピソードも見れてまたお得な感じがする。
ファンタジー物が大好きな人もそうでない人もぜひ一度は手にとって読んでみて欲しい作品だ。
紹介者プロフィール:高坂ミキ好きな作家は、英田サキさん、ひちわゆかさんなど。Hシーンよりストーリーの濃い作品が好き。 30の後半を過ぎてからヤオイに嵌った遅咲き腐女子。似たような内容のストーリーが溢れているBL海で、本当に萌えられる自分好みの作家さんやお話を今だ探検中。