かつては一流のギャルソンだった隼人も、今ではバツイチ、リストラの三十路ダメ男。そんなはやとの実家の小さな喫茶店が経営難に陥り、大手外食企業から買収の話が…。店を守りたい隼人に、企業の御曹司、栄は「昼はカフェで働き、夜は自分のペットになるなら金を出そう」と契約をもちかける。だが、そこには意外な落とし穴が…栄には双子の弟、光がいて、隼人は二人の共有物に…!? 予後と開花するエロス♪ 書き下ろし
オヤジは攻めの方が萌える体質の私、ようです。でも、今回ご紹介する鳩村衣杏「不運な不破氏の愛人契約」に出てくるオヤジは受け。
しかも、バツイチだし、リストラされてるし、流されやすいし、ダメな男です。そもそも、オヤジ好きの人の中には、『断然オヤジは受けで!』とか、『オヤジの情けなさに萌える』という方も多くいるので、その場合はきっと、ちゃんと萌えられると思います。だけど残念ながら私はその萌えツボを持ち合わせておりません。それなのになぜ読んだのかというと、それは鳩村衣杏さんの小説だからという単純な理由でした。好きな作家さんだから興味があったのです。
読んでみての感想は、大満足! やっぱ鳩村衣杏さんはイイ?! 物語の世界にどっぷり浸かりました。『でもこれが面白かったのって、はたして萌えなのだろうか?』という気持ちも感じました。萌えって、その人の嗜好というか、性癖というか、習性というか、なんというか……。本能的な部分も大きいと思うので、あまり変えようがないと思うのです。もちろん、何かのきっかけ次第では突然萌えツボが変わることもあるだろうけれど……。そんなに頻繁にはないと思います。
つまり、ヘタレオヤジの受けという設定に元々ピンとこない私は、やっぱりそれはそのまま萌えられなかったという……。ではつまらなかったのかといえば、それは正反対で、大満足なのです……。なんだか支離滅裂な感想を述べてしまっていますが、実は、鳩村衣杏さんについては、この作品に限ったことではなく、よくこのような不思議な気持ちにさせられます。しっかりとボーイズラブなんだけど、読んでいる時の感覚が普通の小説を読んでいる時の感覚に近い。だから“萌え”は、感じても感じなくてもどちらでも楽しめてしまいます。
どの登場人物にもすごく人間味があるのです。だから、萌えの対象にならずとも大いに興味を引かれてしまう。この物語のオヤジ、不破氏はヘタレ。その言葉がぴったりの男性。これって、本来の私の好みとは違うはずなのに、はずなのに……、引き付ける力はとても強い! また、攻めの栄や、彼の双子の弟の光も生き生きとしています。彼らについては、大企業の御曹司でサディストで 3Pも好きな双子って、色々てんこ盛りな辺り、いかにもBL的で、ややもすると“萌えのためのみに生み出された人物”“妖精さん”になってしまいそうなところですが、彼らもまた人間らしさがある! この物語全体、登場人物は実在の人であるかのように、立体的な人物像が伝わってきて、親近感さえ覚えます。
それは仕事絡みとなると一層くっきりします。そもそも男性というのは仕事にウエイトを置くのが普通なので、その表現がマズイと残念なことになりますが、主人公、ヘタレオヤジ不破氏のギャルソンは伊達ではありません! 以前、鳩村さんの「弔愛」という小説を読んだときにも感じましたが、よくもここまで職業をリアルに、それでいて物語に自然に馴染ませて書けるものだなぁと、驚きました。ちなみに、「弔愛」はバーテンダーが出てきます。彼女のお仕事描写力、特に“飲食接客系”は半端ナイのです。
そして、鳩村作品は、トーンは軽くても重くても、どの作品も厚みがあります。無駄なエピソードはなく、読んでいる時には『ふむふむ』ぐらいにしか思わなかった出来事も、最後まで読んでみると驚くべき結びつきを見せたりします。そういうわけなので、ネタバレしない方が絶対楽しいので作品そのものの説明がしづらい?!! と、いうのは言い訳になりますが、この「不運な不破氏の愛人契約」は、あらすじのポップな雰囲気の文章の通り、比較的軽いトーンで話が進みます。それでもなお、鳩村作品ならではの伏線はしっかりと張り巡らされ、驚かされたりジーンときてしまったりするのですが……。
重い話はとことん重い鳩村さんなので、まだの方はこの作品から試すのもいいかも。後書きには『ヘタレオヤジの受難&再起』とあり、需要も多そうな設定。ヘタレオヤジ好きの方は是非とも! そして、私と同じでヘタレオヤジに萌えない方も、騙されたと思って読んでみてください。
紹介者プロフィール:ようドロドロした昼ドラみたいな設定で受けがヒドイ目に合う展開や、可愛い系だと、兄弟、先生生徒など弱いです。昔っぽくお耽美なのや、設定そのものが前の時代なのもツボ。自分じゃ認めたくないけど、なんだかんだで王道好きなので、ハーレクインロマンスのファンと通じるところがあるかも。。。レビューは整理せず萌えた気持ちのまま挑んでます。なので、後で読むと結構ナゾなことを書いちゃってたり……。日常生活では、一部の友人を除き腐をひたすら隠している私ですが、どうぞよろしくお願いします。