笑いのセンス、文章の上手さがちょっと違う!そう凪良さんは「ちょっと一味違う」作家なのです。彼女の真髄は、ユーモアセンスたっぷりで作品を書ける半面、すごくブラックな話を苦もなくさらりと書けてしまう恐ろしさです。
今回はそんなギャップの作家・凪良ゆうさんに注目させていただきました。
凪良さんは2006年の小説「花丸」冬の号『恋するエゴイスト』でデビュー。
翌年2007年11月『花嫁はマリッジブルー』が商業誌デビューとなりました。
続いて2008年5月『恋愛犯』、同年9月『花嫁は今夜もブルー』、そして2009年2月『初恋姫』と、現在四冊が発行されています。
作品について簡単にお話しますと、『花嫁はマリッジブルー』『花嫁は今夜もブルー』は、姉の婚約者の財閥御曹司と恋に落ちてしまうBL花嫁コメディですが、ユーモアとコミカルさでテンポのいい大変楽しいお話です。
財閥御曹司(攻)の浮世離れしたところ、常識的で等身大な受とのやりとりやギャップが笑いを誘うのですが、それだけでなく姉、姉の彼氏など周りを固めるキャラも立っていて、ストーリーも破綻なく切なさもきちんとおさえています。
そして『初恋姫』は、元華族で蝶よ花よと育てられた箱入りのお坊ちゃんが、下町の定食屋に住み込み、店主と恋に落ちるストーリー。
至極簡単に言うとこちらも「お金持ちと一般人のギャップ」が面白い『花嫁?』と似たテイストはありますが、こちらのお坊ちゃん姫は、『花嫁シリーズ』の浮世離れした財閥御曹司をもっと大袈裟に極端にしたタイプで、家の経歴や攻との関係は江戸時代にまで遡るという「時代劇テイスト」も加味されていて現代劇に妙な可笑しさを添えています。
世間知らずなお坊ちゃまがただ「可愛い」だけで「おバカさん」として愛されるのではなく、登場人物の中で、「実は一番しっかりして真っ直ぐな人」として書かれているのがよりキャラを魅力的に見せています。
発売になっている4冊のうち3冊はこのようにコメディ作品で、あらすじだけを読むと題材は既存のものではありますが、凪良さんは笑いのセンス、文章の上手さが随所に光っていて、定番のお話であっても「ちょっと一味違う」味がします。
表面上で転がすだけの笑いではなく、知識や知性、それをうまく選び取り言葉にするセンスは目に止まるものがあるように思います。
そして『恋愛犯』ですが、こちらは他の3作とは違ってドシリアスで、しかも「ストーカー攻」という他と比較すると驚くような作品です。
ただただ受を愛するが故、それだけなのですが攻の行動は常軌を逸しねじれた方向へと進んでしまう。しかも犯罪。
ハッピーエンドですが、他で見られるユーモアセンスは一切封印され、しかもここまで極端なところへ行ってしまうとなると振り幅が大きすぎます。
その大きさこそが「注目する理由」のひとつでもあるわけです。
文章の上手さ、ユーモアセンスの良さはもちろん、これだけブラックな話も出るとなると、凪良さんの頭の中にはどれだけの引き出しがあるのか?どんなものが出てくるのかともっともっとと覗いてみたくなります。
ブラックとコメディ、その両極端を行き来する作家さんなのか、まだまだ、実は中間もあったりするのか。
「凪良ゆう」さんの名を見たら手に取ってみるべし・・・と固く決意しているのですが、今後は受が殴られ蹴られのまたまたドシリアスが予定されているそうで。
ホントに極端なんですね(笑)。
ギャップに惹かれる・・・というのはBLだけのことではなく、現実にも効果を発揮しますね。
凪良さんのギャップに注目。
紹介者プロフィール:汐本代を捻出するため(もちろんBL)、日々いかに節約するかで頭がいっぱいの主婦。砂原糖子の商業誌作品はコンプリート。小川いら、たけうちりうと、も即買い。BL以外では、椹野道流「鬼籍通覧シリーズ」に勝手に腐の香りを嗅ぎ取り萌え狂っているらしい。しかし好きな本ほど絶版になるというジンクスが……。