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もっとも軽薄で残酷な男 芦屋誠一 『さようなら、と君は手を振った』

2008/08/11 00:00

思うだけの恋、相手に何も求めない恋はこの世に存在できるのか?無償の愛を題材にした問題作。思いもよらなかった結末に読者は息を飲む?

 木原作品には、人間としていかがなものかという登場人物が多数存在しますが、この作品の主人公芦屋誠一は、その名前が恥ずかしくなるほど軽薄で、残酷で、誠意がなくて、性格の悪い男ワースト3に絶対はいるキャラクターです。
しかし、唯一の救いは、啓介を好きだという自覚はないにしても、無意識で啓介を求めている描写があるので、やや救われますし、これは実験的な作品なので、実は翻弄されているのは、誠一の方なのです。
「この話を書こうと思ったのは、思うだけの恋というのはどういう物だろうと想像したからです。相手に何も求めない、与えるだけの恋愛。自分の気持ちに向き合っていない自己満足の逃げだからこそ面白く憧れる」と木原先生があとがきで述べられていますが、思うだけの恋、相手に何も求めない恋、そんな人間はいるはずがないのに、作者の想像したら面白そうだというエネルギーが、一人の独創的な人物を作り上げたのです。
氷見啓介は、誠一に何も求めません。どんなに踏みつけにされても誠一をなじることもしませんが、誠一視点なので、都合のいい相手でしかないのです。実は、啓介は、自分のなかで誠一との付き合いに期限をきめて見限っているからこそ、こういう何も求めないという行動をとり続けることができたのです。
今まで啓介のことをろくに見ていなかったのに、啓介をもっと知りたいと啓介に目を向けてはじめて、彼が何も求めていない、自己完結した人間だと気づき焦ります。実は捨てられたのは、誠一の方だったのです。
こういうどんでん返しが、木原作品の醍醐味といえます。今まで何もかも全てを受け入れてくれていたはずの人が、手の平を返したように素っ気なく、切り捨てていくそのジェットコースター感は、他のBL作家さんでは味わえないものです。
翻弄された気分をすくってくれるのは、後半の啓介視点の続編です。
誠一と決別したのちの啓介視点の話は、誠一にのめり込むことが怖くて、自分のなかで完結することで、自分を守ろうとしていたことがわかり、読者も手のひらを返した理由を納得できます。
登場人物の不可思議な行動にも、読者を納得させるだけの理由が寄り添っていて、微妙な心の揺れ、多彩な恋模様をたどる内に読後は綺麗にピースがおさまったような感動を覚えます。この心理描写の細やかさは、木原先生のするどい人間観察のたまものかと想像させてくれます。

紹介者プロフィール:はる
木原音瀬、榎田尤利の小説をこよなく愛するお年頃の主婦。運動不足解消を目指すべく犬の散歩にせっせと歩いているが、考えているのはBLの事。 精神的な痛みが伝わる描写に激しくもだえる“精神的”鬼畜な性格。バッドエンド、死別、カップルになれないまますれ違って終わる作品がもっとあってもいいじゃないか!とハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。

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