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【試写レポ】男性同性愛が罪とされても愛を求めた――心が震える映画『大いなる自由』

2023/07/07 18:00

不条理な状況で築く愛と友情…言葉が出ない傑作

 

 

第二次世界大戦直後から、男性同性愛を禁じた刑法175条が改正されるまでを、一人の男の人生を通して描いた映画『大いなる自由』が遂に2023年7月7日、日本で劇場公開されました!

まさに、言葉が出ないほどの名作。戦後ドイツで男性同性愛者がおかれていた過酷な現実、抑圧された状況の中で築いていく友情と愛……。鑑賞後は胸が震え、改めて「自由」や「愛」の意味を考えさせられました。

今回は、一足先にこの『大いなる自由』を観覧した記者が、作品の魅力をご紹介します!

※以下本編のネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

◆目次◆
1.3つの時代で辿る、同性愛者の置かれていた状況
2.演技力と演出で醸し出される徹底的なリアリティ
3.抑圧の中でも手を取り合う友情と愛
4.終わりにーー人間の「大いなる自由」に向かって

 

あらすじ
第二次世界大戦後のドイツ、男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは「175条違反者」である彼を嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所にいたことを知る。己を曲げず何度も懲罰房に入れられる「頑固者」ハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。終戦後の1945年、恋人と共に投獄された1957年、そして刑法改正が報じられた1968年――3つの時代を行き来しながら、「愛する自由」を求め続けた男の20余年にもわたる闘いを描いた、静かな衝撃作。

 


物語は、1945年、1957年、1968年の3つの時代から構成されています。前後しながら進んでいくので、今どの時代だ!? と迷子になりかけますが、主人公ハンスの髪型や表情で分かります。

1945年は、第二次世界大戦後間も無くのこと。同性愛者であることを理由にナチスの収容所に入れられており、終戦後そのまま刑務所に移送されてきました。

ドイツ刑法175条(1871~1994) 1871年に制定された男性同性愛※を禁じる刑法。ナチ期に厳罰化され、戦後東西ドイツでそのまま引き継がれた。西ドイツでは1969年に21歳以上の男性同性愛は非犯罪化され、1994年にようやく撤廃された。約120年間に14万もの人が処罰されたといわれる。

※刑法175条は男性のみを対象としており、女性同性愛はその存在さえ否定されたことから違法と明記されていなかった。 ーー映画『大いなる自由』公式サイトより引用


ハンスは長い収容所生活で憔悴した様子ではありながらも、罰されても意思を曲げない強さを感じさせます。

1957年は恋人と共に投獄。ハンスが撮影した幸せそうなフィルムと、抑圧された獄中生活との対比が切ないです。しかし10年が経つ中で、ハンスは愛に満たされ余裕のある表情に変化している様子。刑務所内でも度々恋人と密会し、憔悴した恋人を勇気づけるため自由を求め「東ドイツへ逃げよう」と提案します。


1968年は、ヒゲを蓄え渋い男になったハンスが幾度目かの投獄。そこで同じ罪状で捕らえられた教師と惹かれ合い、体の関係も持ちます。
そして、この年は男性同性愛を違法とする刑法175条が改正されると報じられた年。刑務所の中でその一報が表紙になっている雑誌を見つけ、「もう違法じゃない」と希望を抱くのです。


こうして3つの時代を追う中で、ナチスにより厳罰化され収容所にさえ入れられていた時から変わらない終戦直後、依然として同性愛が罪とされ時に自分自身を刺す刃ともなった1950年代、そしてようやくスタート地点に立った1960年代末……という形で、戦後ドイツにおいて男性同性愛者が置かれてきた状況を肌で感じます

 


こうした20余年にわたる経年変化を体づくりと表情の変化で表現したハンス役のフランツ・ロゴフスキ、ヴィクトール役のゲオルク・フリードリヒの2人がとにかくスゴイ。特に収容所暮らしのやせ細った体を作り上げたロゴフスキ氏の努力は図り知れません。セリフは多くない中で、決して曲げない自由への信念を目で語る演技に圧倒されます。

そんな俳優陣の説得力のある演技を一層真に迫ったものにするのが、リアルに描かれた刑務所での生活。その埃の匂いや寒々しい温度まで伝わってくるよう。


リアリティと言えば、この映画の重要な点でもあるセクシャルなシーンも徹底的に描かれています。ハッテン場での行きずりのセックスはもちろん、ヴィクトルがハンスの頼み事と引き換えに持ち掛けたご奉仕シーンも、もう本物が見えるレベル……制作陣の本気をひしひしと感じます……。




というわけで、この物語の1つの軸は、そんなハンスとヴィクトールの友情です。
同房になり、最初は同性愛嫌悪の態度をあらわにしてくるヴィクトールですが、ハンスの腕に刻まれた収容番号を見ると自らの彫師としての経験を活かし「その上から別の模様を彫ってやる」と提案します。


殺人罪により刑に服しているヴィクトールは長く塀の中におり、同性愛の罪で繰り返し入所してくるハンスとはその度に顔を合わせることに。2人はぶつかり合いながらも時にお互いを庇い合い、慰め合い、友情を育んでいくのです。
1957年次、とある出来事から絶望の淵に突き落とされ泣き崩れるハンス。それまでは他の囚人たちと共に軽く振舞っていたヴィクトールでしたが、ハンスの動揺を目にすると、ヴィクトール自らも戸惑いながらも彼を抱きしめます。


反対に、1968年時点では既に薬物漬けになり体を壊していたヴィクトールの姿を見て、ハンスはかいがいしく介抱し、彼のボロボロの体を案じます。ラストシーンも……こちらは是非本編を見ていただきたいので多くは語りませんが、ハンスの心にはヴィクトールの顔が思い浮かんでいたのではないでしょうか。

 

 


不自由な刑務所での生活が大半の尺を占めるこの映画のタイトル「大いなる自由」に少し違和感を抱くかもしれません。しかし収容所に入れられ、投獄され、何度尊厳を奪われようとも、誇りを失わず、愛する人をまっすぐに愛し、内なる自由を抱き続けたハンス。その力強い生き方こそ、「大いなる自由」。

手紙を書いて送る手段もない中、別棟に入っていた恋人に向けて驚くべき方法で伝えたメッセージが深い愛で溢れており、思わず涙が……。一部の映画チラシにもその仕掛けが施されているようなので、見つけたら教えてください!

 

********************

 

人権が踏みにじられていた時代に、内に燻ぶる自由の炎を燃やしていた人々の様子が垣間見える本作。ラストシーンで、法改正により自由の身となったハンスが取った行動は、どういった意味なのでしょうか……気になった方は是非、劇場に足を運んでみてください!



映画『大いなる自由

 


制作年:2021年
制作国:オーストリア、ドイツ
上映時間:116分
監督・脚本:セバスティアン・マイゼ
出演:フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレン ほか
配給:Bunkamura  Subsidized by German Films   ©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
■公式Twitter @greatfreedomjp
■公式Instagram @greatfreedomjp

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