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今話題沸騰中の是枝監督映画『怪物』の“エグさ”を語りたい

2023/06/15 17:00

伏線を確かめるために、もう一度観たくなる


嵐の日に姿を消した2人の少年。狂いつつあった日常の裏では、何が起こっていたのか……。

監督・是枝裕和さん×脚本・坂元裕二さん×音楽・坂本龍一さんという豪華タッグにより生み出された映画『怪物』。
今世界中で話題を集める本作ですが、筆者としては作中で描かれる“小学生2人”の関係性が特に印象的でした。

 


少年2人が自覚する「恋」、突きつけられる残酷な現実……。改めて「恋」「性」とは、そして“理不尽”とはを考えさせる作品になっています。

今回は、そんな本作を小学生2人・湊と星川くんにフォーカスしてご紹介します。

※本編の重要なネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

 

◆目次◆
1.絶対にもう一度見たくなる「羅生門形式」の面白さ
2.少年たちの刹那の蜜月と残酷な世界
3.壮絶ないじめ・虐待・理不尽が束になって襲いかかる
4.解釈の分かれるラスト……あなたはどう思う?



あらすじ
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消したーー。

 



「羅生門形式」とはーー黒澤明監督による映画『羅生門』(1950年)に由来する作品形式のことで、ある
一つの出来事を、立場を変えて複数視点で描くもの。

『怪物』もこの形式を用いた3部構成になっており、初めはシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)、次に小学校教師の保利(永山瑛太)、最後に早織の息子の湊(黒川想矢)と友達の星川くん(柊木陽太)という2人の小学生の立場から描かれる、というのが大まかな流れになっています。


息子が「豚の脳を人に入れたらそれは人? 豚?」と変なことを言い出したり、持ち物がなくなっていたりと不可解な出来事が重なる中、「担任が息子に暴力を振るった」という疑惑が浮上してきます。学校に行って担任・校長に説明を求めに行くと、マニュアルを読み上げるような不誠実な態度でかわされ、それ以上何も言えずに憤るしかありません。

こんなことある? と観客も不気味になるほどなのですが、後々その担任の保利先生や校長サイドの物語が展開すると、事態はもっと複雑であることが分かります。全てを知った者としてもう一度冒頭から見て伏線狩りに行きたくなる。登場人物に対する印象が二転三転するところが、なんとも奇妙で面白い脚本になっています。

 

 

その渦中の子供達を演じる子役のお二人は、必ずや日本映画史に爪痕を残し語り継がれていくことになるーーそう確信しました。


湊は星川くんのことが好きで、星川くんもおそらく湊のことが好きなので、実質両片思い状態の2人。近くの山に放置された電車の廃車両を秘密基地にして、2人だけの世界に浸るこの束の間のシーンが本当に優しくて美しいんです……。星川くんが可愛すぎる。同年代の子よりもひと回り小柄で湊とも体格差がかなりあるのですが、だからこそ天使のようにも見えるし、一方で堂々としていてどこか大きく見えるところが、このキャラクターの魅力だと思います。

しかしそんな2人の間に変化が訪れます。ある日、星川くんが家の都合で(ここも多分かなり闇が深い)、転校することを告げられます。ショックを受けた湊は普段のクールさを崩し、「居なくなったらヤだよ……」と星川くんに縋り付きます。ここの湊役の黒川さんの演技が、目まぐるしく変化する心情を表現していて圧巻でした。
個人的には、ここの5秒とその後のやりとりのためにもう一回この映画を見に行くぞ!! と思えるくらい心を揺さぶられたシーンでした。

しかしこの時、自分の中の得体の知れない衝動が恐ろしくなってしまった湊は、星川くんを突き飛ばして逃げてしまいます。この日をキッカケに、2人の関係もすれ違うように……。子供が「恋」や「性」を初めて自覚する時の感情が描き出されていると同時に、湊の場合はその対象が「自分と同じ」「男の子」だったという点が一層彼を追い詰めたことは、その後のセリフなどからも明らかです。

 

 


このように、子どもの心を描き出す繊細さを持つ一方、現代社会の闇を抉り出した作品でもあるのが本作。
星川くんはクラスでいじめられていて、湊も星川くんに「みんなの前では話しかけないで」と言うシーンでは、好きなのに、自分を守るためにそうせざるを得ない、そんな自分の臆病さが苦しいだろうなと湊の気持ちを容易に想像でき、胸がキュッとなります。

いじめられている当の本人の星川くんはもっと辛いに違いないのですが、いつも笑顔で明るく礼儀正しく、毅然と振る舞っています。しかしそれだけではなく、父親からも虐待を受けている星川くん。理由ははっきりとは言われませんが、父親が我が子のセクシュアリティを「矯正」しようとしていると分かる台詞が時折出てきます。

その他にも、母親が息子への校内暴力について直訴しに行くと「モンスターペアレント」とレッテルを貼られ誠意のない対応に絶望する場面や、逆に言われのない罪を被せられ社会的に陥れられる理不尽さなど、あらゆる地獄が複雑に絡み合っているのです。

これこそ「羅生門形式」の妙。理不尽が重なり合って大きな悲劇を呼ぶ……という不気味な恐ろしさこそが、タイトルの「怪物」が意味するところの一つなのだと思います。

辛いシーンが多数あるため、自身や身近な人などに経験がある人は注意が必要です。

 

 
さて、ラストシーンは一言で言って「諸説あり」です。
嵐の夜に湊と星川くんが失踪し、早織と保利先生は必死に2人を探すのですが、その結果はどうなるのか。「めでたしめでたしなんじゃないの?」という人、はたまた「メリバすぎる……」と頭を抱える人。注意深く観察すると、アレがああなっていたり、でもアレもああなっていたりと、エンディングの真実のヒントが散りばめられているような気もしなくもありません。

この物語はフィクションでも、同じような絶望の現実は存在するはず。だからこそ、このラストシーンは希望だと思いたいです。彼らに幸あれ!

 
 
****************
 
 
いかがでしたでしょうか?

辛い描写が多く、心が救われるような作品ではないかもしれません。だからこそ、今ある痛みや苦しみを鮮明に描き出した作品だと思います。

気になった方は是非、劇場に足を運んでみてください!

担当記者:廣井無名
完全には幸せになれない作品、CPが好き。キーワードは死ネタ、愛のないSM、流血、狂気、宗教、叶わない恋など。

 

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コメント4

投稿順 | 最新順

匿名3番さん(1/1)

思いっきりネタバレだったけど、観たい欲が高まりました。(でも2人の関係性は出さなかった方が良いですね)

甘々で幸せなBL大好きですが、やっぱりリアルの人間が演じるなら、この位闇深くてドロドロした同性愛の方が良い。
昨今のBLドラマブームに乗り切れてない理由がよく分かった。甘々なBLは二次元の中だけで良い

匿名2番さん(1/1)

まったく何も知らずネタバレなしで、見に行きました!
これは本当になんの情報も入れずに観た方が絶対いい映画です。驚きが3倍!
観たあとにこの記事を知ったので、今から映画に行く方はこの記事を見ないことをオススメします。

匿名1番さん(1/1)

なるほど。
そーゆう映画でしたか。
思いっきりネタバレですが、
観たい欲が高まりました!

ネタバレ注意と表記していただきたい記事です。二人の関係性は知らない方が絶対に良い。

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