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【in中国】中国BLをネット小説からみる、黎明期から今までの略史

2019/11/04 15:45

2024/04/08 16:00

中国のBL規制が厳しいのは噂で聞くけど、実際は…?

 

 
ちるちるでも何度か取り上げた中国BL界隈の不幸。中にはBL作家の逮捕ニュースや、BLの中国語タグである「耽美」の使用が禁じられ、「純愛」というタグ付けになってしまった……などのニュースが記憶に残っている方もいると思います。
 
しかし近年、日本では『魔道祖師』を始めとする中国BL小説が流行し、新たなジャンルとして確立しつつあるのも事実。日本では盛り上がりを見せていますが、本場中国では今どのような状況なのでしょうか……!?
 
というわけで、今回は本国のBLに関する状況を詳しく調査してみました! 今中国では何が起きているのか……ぜひ最後までお付き合いください!

◆目次◆
1.すべてはネットと作家と読者から
2.BL関連書籍は“完全”に規制されているわけではない!?
3.プロからアマチュアまで!?中国のBLドラマCD文化

4.アジアから欧米へ

5.追い風、向かい風。今とこれからの中国BL

 

 

まずは中国BLの土台であるネット小説文化からおさらいして、近年の中国BLの様子を簡単にまとめていきたいと思います。

中国は90年代以降から経済成長に向けた動きが目立ちました。特に最先端のIT産業に目を付けた政府は積極的に国内に取り入れ、この流れによって中国でのネットユーザーが増加しました。この時期からネット小説のプラットフォームが徐々に形成され、2000年代に入ると現在まで繋がるネット小説文化が形成されました。

そんなネット小説は現在、中国で4.6億人以上のユーザーを有し、40億ドル (日本円(1ドル=150円時)約6000億円)規模の市場を生み出す文化となっています。

その中でも、女性向け小説の最大手である「晋江文学城」は中国で初めてできた女性向けの大型小説サイトです。その規模は女性向けネット小説市場の約80%を占めています。

 


登録ユーザーは6572万にのぼり、ユーザーの一日のオンライン平均時間は80分。

男女比は1:9、18-34歳のユーザーは全ユーザーの84%を占める。世界の約200以上の国、地域からの登録者を有し、海外ユーザーは全体の10%を占める。

※サイトデータ(2024年2月、HPより)


 
日本のサービスで例えるなら、「小説家になろう」より約10倍ほど規模が大きいサイトが女性向けに存在していることになるでしょう。日本の小説サイトとの一番の違いは、連載作家になれば、サイトでの連載で月々原稿料をもらえることです。

 

「晋江文学城」の作家収入システム:

・登録作家の場合:「投げ銭」のみ
・契約作家の場合:「投げ銭」+「VIP収入(購読料)」+「メディアミックス契約」

▶「投げ銭」は、読者がポイントを購入して「地雷」と交換し、作家に投げつけることによる収入。


(「地雷」と呼ばれるようになったのは作品が更新していないことを作者が「潜っている」と呼び、地雷で作家を水面下から水面上におびき出すための中国ネットスラングから)

・1元=100ポイント
・利益:作者とサイト半々
・作家ごとに読者貢献ランキングを持っている
 読者は作家に対して
  - 一般作家:累計1,000~2,000ポイント(約2,000円)
  - 有名な契約作家:累計3万~4万ポイント(約5,000円)
 を貢げば、その作家の読者貢献ランキング一位になれる。

種類換算日本円
地雷(100ポイント)   1元   約17円 
手榴弾(地雷×5) 5元   約85円
ロケット砲(地雷×10) 10元   約170円
爆雷(地雷×50) 50元   約850円  
魚雷(地雷×100) 100元  約1,700円
 
「VIP収入(購読料)」は連載における話ごとの収入。

 
・人気が集まった作品/作家(※一定文字数+ブックマーク数+コメント数、またはランキング入り)に編集者から、ポテンシャルを見込んで「契約作家になりませんか」との連絡が届くそれを承諾することで契約作家になることできる
・契約は5年固定から
・契約作家になると作品の「VIP化」ができる
  - VIP化=小説のキリがいいところ(基本第1章~10章)までは無料、続きを読みたい場合はその先が有料になる
  - 毎日3,000字以上の更新が必須
  - 利益分配は、初めての契約期間で作家6:サイト4、第二回以降は作家7:サイト3
 
メディアミックス契約による収入。


(「晋江文学城」では、メディアミックスの権利につき作品タイトルの横にアイコンがつく)
 
作品に人気が出れば、メディア会社や出版社からメディアミックス契約の申し出が届きます。アニメ・マンガ化、映画化、テレビドラマ化、ゲーム化、ドラマCD化、各言語の小説出版、それぞれ権利を売り出すことで収入を得ることができます。
 
もちろん今は他にも女性向けの小説サイトがたくさん存在していて、利益の分配がもっといいところもあります。しかしBL小説家で「連載作家になって収入を得ること」を広め、界隈を盛り上げたことから、「晋江文学城」は今でも界隈の礎であり続けています。

さらに「晋江文学城」は創作作品だけではなく、それらの“同人作品”(二次創作作品)も掲載することもできます。
 
(『魔道祖師』の二次創作作品)
 
そして「晋江文学城」作品の最大の特徴は“エロシーン”厳禁です。はい、エロは絶対NGです。(大事なことなので二回目)BL・BL以外を問わずここに掲載されるすべての作品は、性描写を直接的、間接的に表現することが利用契約で禁じられています。
 
2014年に「晋江文学城」のBLジャンル名は「耽美」から「純愛」に変わり、BL描写への取り締まりが一段と上がってしまいました。ネットでは「首以下の描写禁止」「セックスするときは消灯」と揶揄されるほど、性的な描写が本当に厳しく禁止されています。
 
「晋江文学城」は2019年にウェブサイトで掲載されている作品内の“性的描写”を巡って、行政の本社立ち入り捜査まで行われた事件が起こりました。これにより当サイトは2019年7月に15日間に渡って作品の投稿が停止されました。それ以降「晋江」では濡れ場シーンに対する規制が一層厳しくなっています。

そんな「晋江文学城」と真逆のコンセプトの小説サイトは「海棠文学」です。こちらは成人向けネット小説の最大手。作品を閲覧するには会員登録が必要な会員制ウェブサイトであり、18歳以上の成人のみユーザー登録ができます。また「晋江」と似ているVIP制度や投げ銭制も整備されています。

誰でも閲覧できるわけではないため、内容規制が厳しい中国でもネット小説の範囲内で“性的描写”を含む作品の投稿が許可されます。ストーリーで勝負する「晋江」とエロ武装の「海棠」は真逆の存在同士ですが、コアなBL愛好家は皆、“二刀流”使いです(片方は成人の特権ですが…)。

「晋江文学城」ではストーリー性のある作品の品揃えが豊富なため、「海棠文学」の作品は一転してエロシーン中心の作品が掲載されます。勿論ストーリー性+エロが両立した作品も数多くありますが、日ごろから至るところで規制されていた反動で「海棠文学」では“肉(濡れ場)がなければ海棠に有らず”の共通認識があります。ネットでは「晋江産」と「海棠産」という言い方で作品のエロシーンの有無を表現しています。

 

2018年あたりに界隈を揺るがしたBL作家逮捕の報道は、中国国内に留まらず海外でも話題になったことで記憶に残っている方もいるかもしれません。そのイメージから、中国国内の厳しいBLコンテンツの規制で完全にBLがタブー視されていると思う方もいるでしょう。しかし実際の中国でのBLコンテンツの近況は私たちが考えている程深刻な状況ではありません。

BLコンテンツが堂々と中国で日の目を浴びることは厳しい部分もたしかにたくさんあります。しかしコンテンツ自体が完全に禁止され、創作する人、それを楽しむ人達が違法扱いされているわけではありません。

 

実際中国ではBLに限らず、“不適切な表現”(性的描写等)の出版規制がされています。さらに重罪となるのは、無検閲の書物等を中国国内に郵送路で送ること、配布または持ち込みをすることです。

このような出版物の“性的描写”の規制、無検閲内容の取締等は中国に限らず他の国にも存在しています。さらに言えば、日本のように書店で商業BLが誰でも買えること自体が、他国からすればものすごく規制がゆるいという風に映るでしょう。

2018に起きた有名なBL作家の逮捕のニュースは、自身のBL小説(性的描写いわゆる“濡れ場シーン”を多く含む)を自分で印刷しSNSで販売していたことに対する無断出版、および不適切な文化の宣伝に関する罪で有罪判決を受けました。

 

これはBLコンテンツに限らず、どんな内容でも中国当局の検閲を通らなければ公の目に触れることすら許されません。例えば日本の大ヒットアニメ映画『鬼滅の刃』も検閲を通れなかったことから中国国内で上映されることが叶いませんでした。

このように規制されている対象は「無検閲の内容である」ということがキーワードです。言い換えれば検閲の壁を乗り越えられればBL小説も一般書籍と同様に出版することができます。ネット小説は認められる場所であれば出版も許可され、作家は執筆し続け、読者はそれを鑑賞し続けることができるのです。

 

 

中国BL小説は、最近漫画化されていたり、さらに「陳情令」や「山河令」のように実写化されるなどのマルチなメディアミックスが展開されています。

 

中国BLドラマCDはその中でも特筆すべきメディアミックスの事例となっております。中国のBLドラマCDはCDが流通しておらず、「猫耳FM」というオーディオサイトにデジタルで連載、販売されています。


 

中国のBLドラマCDは、元々は日本のドラマCDにならって、有志によって作られたものがはじまりでした。さらに日本と大きく異なる点は漫画原作はほぼなく、小説原作が多いということ。そのため長編で重厚な小説を、ドラマCD化することで聴き応えがある作品が大勢揃っています。
 
さらに最近は漫画×ドラマCDのコラボレーションで、視覚も聴覚も満たされる作品が増えました。近年はドラマCDの存在が徐々に公式化されてきて、プロの声優や有名イラストレーターを導入することで品質も目に見えて高くなってきているため、中国のBL界隈では最も注目すべきメディアミックスの一つと言えます。
 
最大のドラマCDサイトである「猫耳FM」も、例外なく表現規制の取締の影響を強く受けました。“耽美”に代わりBLを指すタグである“纯爱”の使用が禁止されているので、ユーザーがBLドラマCDを探すには直接検索をかける必要があります。とあるBLドラマCDプロデューサーによると「猫耳FM」はとても規制に注意深く、例えばキスシーンなどは2秒以上の尺を取ってはいけないなど、自主ながら細かい規制の中で作品を作らなければなりません

 

 

2010年代の中国BL人気小説の翻訳版の出版先はベトナム、タイ、韓国といった東アジアから東南アジア中心の市場でした。しかしちょうど2020年代に差し掛かったころから日本を始め英語、フランス語、ドイツ語などの英語圏から欧州まで広まりました。

 

 中でもグローバル化の波が最も顕著なのはなんといっても墨香銅臭先生の作品群でしょう。彼女の作品は北米でBL界として初の功績をおさめました。全3作品『天官赐福』『魔道祖师 』『人渣反派之自救行动』は全てSeven Seas Entertainment出版社から2021年に出版され、そして年明けには全ての作品が“New York Times’s ”の“Paperback Trade Fiction Best Sellers”にランクインしています!!

 

 (2022年1月 “New York Times’s ”の“Paperback Trade Fiction Best Sellers”ランキング)

 

(goodreadsの墨香銅臭先生の作品一覧)


さらにgoodreads(世界最大の書籍レビューサイト、Amazonの子会社)では全作品が星4以上を獲得しているという作家の人気ぶりも凄まじいです。 

 

 

このように現在の中国BL界隈はネット上ではある程度黙認をしてくれる雰囲気ではあります。しかし決して日本のような表現の自由が許されているような状況ではありませんし、目立ち過ぎた振る舞いは目を付けられやすいことも確かです。

 

しかしBL界隈に限らず、中国は様々な表現規制で巨大な人口を統一してきた歴史があります。言い換えれば中国の人々は規制の歴史を現在まで歩んでいき、「上に政策あれば下に対策あり」という文化でした。

 

作者としては、特に近年の中国BLの海外進出はこれまで経験したことがない現象だと思います。中国BL界隈に対する認知度が増えることで、代表的な作品以外にも徐々に人の目に触れていき、人気絶頂期から何年か経って改めて作品が注目されることが個人的にすごく嬉しい出来事です。

 

中国BL界隈はなんといってもBL作家のほとんどが20代から30代の若者が中心です。墨香銅臭先生は20代後半で『魔道祖師』を完成させ、Priest先生も20代前半で『山河令』の原作小説『天涯客』を完成しました。

 

確かに当局からの規制はまだまだ大きな影を落としています。しかし薄暗いトンネルの中にいるような中国BL界隈にも、近年では徐々にその先の僅かな光が見えているように感じます。BL界隈を支えている若き作家たちを始め、国内の作品だけではなく海外の作品も受け入れるBLが大好きなファン層の存在はとても大切です。

 

最後に、この苦境の中でも逞しく成長し続ける中国のBL界隈で、これからの未来を作るBLを愛する若者たちの力で現状を変えられることを願っています。
 

◆◆◆


いかがだったでしょうか?ここまでお付き合いいただきありがとうございました。筆者としてはまだまだ語りたいことが沢山ありますが、それはまたのお楽しみに! 

 

コメント2

投稿順 | 最新順

匿名2番さん(1/7)

全年齢向け「晋江文学城」とエロ特化の「海棠文学」で明確に住み分けされてるんですね。日本でも晋江文学城的な全年齢向けに特化したサイトがあればいいのに…w

晋江文学城から重厚なストーリーの長編人気作品がたくさん生まれる一方で、規制のゆるゆるな日本は年々ストーリーがエロ特化になって売上の関係なのか巻数が短くなっていったのは…なぜ?って思ったんだけど、規制がゆるい成人雑誌から名作が生まれないのと同じなんだろうな。
日本の少女漫画や少年漫画も性描写規制は厳しいけど、鬼滅のような大ヒット作が生まれるのは性描写規制のおかげもあるんじゃない?日本BLが特殊なだけなんだと思う。
ジャンプが日本BLのように規制ゆるゆるになったら、どれもこれも成人雑誌のようになり、ストーリー重視の大ヒット作が生まれなくなるというのは容易に想像つく。同性愛異性愛関係なく、性描写を規制した中でしか描けない作品はあるし、長編ヒット作は性描写禁止の枠の中でしか育たないのかも

匿名1番さん(1/1)

「地雷で作家を水面下から水面上におびき出す」「地雷を作家に投げつける」で笑ってしまった
違う意味なんだろうけど、なんて物騒な…w

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