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東京漫画社は何が新しかったのか?人気作で振り返る13年の歴史

2017/06/08 13:03

「マーブル」「カタログ」「BGM」から「Cab」へ 日常系BLの系譜をたどる


東京漫画社のオリジナルBLアンソロジー『Cab』が50号を迎えることを記念して6月24日(土)~7月2日(日)、東京・神保町のアートスペース「Creative / Art Gallery CORSO」にて「祝50号 Cab展!!」が開催されます。

同社は、2004年にオリジナルBLアンソロジー『MARBLE』を刊行して以来、新しい作風のBLを生み出してきた出版社として知られています。


今は若干落ち着いた印象もありますが、2000年代前半の快進撃は強く記憶に残っているBLファンも多いのではないでしょうか。
当時の東京漫画社は、草間さかえ先生やえすとえむ先生、ヤマシタトモコ先生といった執筆陣を抱え、それまでのBLとは一線を画する作品を送り出し、ファンに受け入れられました。

そういった作品は、評論家の吉本たいまつさんによって「ニューウェーブBL」と呼ばれたことも。
これをきっかけとするように、新しいBLを作る流れは、茜新社『OPERA』や、祥伝社『on BLUE』などに続いていきました。

東京漫画社の刊行物としては『MARBLE』に引き続き、テーマアンソロジー『カタログ』シリーズも人気を博しました。


2007年から2009年まではオリジナルアンソロジー『BGM』も刊行され、そして2009年からは現在おなじみの『Cab』へ。



掲載作の多くは、東京漫画社のBLレーベル「マーブルコミックス」から単行本として発売されています。

今回は、そんなマーブルコミックスの各年の人気コミックスから、東京漫画社の13年の歩みを、ちるちるユーザーのレビューの抜粋とともに振り返ってみようと思います!
各年に出版されたマーブルコミックスの中から、ちるちるユーザーの現状評価が一番高いものをピックアップ、複数年で作家が重複した場合は繰り上がりで2位3位の作品をご紹介します!

 

 2004年


『はつこいの死霊』草間さかえ

何度読んでも、もっと何かが隠れているじゃないか、もっと細かく読めるんじゃないかと思ってしまいます。
一読しただけでは、正直、全容を把握しきれなかった。(読解力のある方なら一度でわかるんだと思いますが。)
繰り返し読むことによって細部が結びついてきて大きな一枚の絵になりつつある感じ、というんでしょうか。――フランクさん

トップバッターは草間先生の初東京漫画社コミックス。今振り返ってみると、たしかに革新的といえるレベルで独特、かつ唯一無二の魅力を放っています。まだこのころは草間先生の絵柄のクセがかなり強く出ていますね。どこまでもすれ違っていてドライな関係の中に、思春期のせつない熱がこもるストーリーを独特の筆致で描き出している記念碑的作品です。

 

 2005年


『ラ・ヴィ・アン・ローズ』ヤマダサクラコ

最初の小説家読み切りと、後半の学生三角関係モノ以外はマスターを中心としたオムニバス形式の作品。
あっちこっちに手を出して、大人の恋愛を楽しむ性悪マスターと、最終的にマスターに惚れてやきもきするバイトの阿部くん。
この二人の関係性が大好きです。
マスターに振り回される阿部くんは不憫で、文句なく可愛い!――satokiさん

オムニバス形式で、遊び人のバーテンダーが様々な人と関係を持つという設定。多彩な恋に萌えられます。こういった形式、2005年時点では珍しかったのではないでしょうか。

 

 2006年


『僕の愛の劇場。』北別府ニカ

北別府さんの作品は、やっぱり面白いですね!
テンポのいいギャグと攻めの泣き顔でキュンときてしまいます!
いつもの私なら、攻めにキュンとくることは少ないのですが、お笑い芸人のこのカップリングの攻めは、受けのようにバカだ……。

初エッチは、攻めが突っ込む前に、出しちゃうとゆう失敗が可愛いのです!
受けの表情も萌えとしか言いようがありませんが、ここはあえて評価を「神」にします!
それは、お笑いでここまで萌えさせるからですね~――綾姫さん

売れないお笑い芸人のホモネタから始まる恋愛を描いた表題を始めとした短編が収録されているコミックスです。北別府先生の可愛らしく素朴な絵柄でくりだされるギャグは思わず笑顔になってしまうはず。

 

 2007年


『くいもの処 明楽』ヤマシタトモコ

何の変哲もない普通の兄ちゃん・お姉ちゃんばかりしか出てこないのに、ラブになる。
ヤマシタ先生のそういうところは魅力だと思います。
リアルホモの描写って言うか、リアルな生活っていうか…
身近にもいそうな普通さがいいのかな……BLというよりはナチュラルにホモですよ! なんて言えないけど^^;
鳥原の考えすぎる感じと明楽のアホさがちょうどいい具合にストーリーのテンポを作っていて、私は100万回読んだって飽きないかなと思います。――奥条千華さん

BL界に衝撃をもたらしたヤマシタトモコ先生のデビューコミックス。アンチ王道、革新派の嵐を巻き起こした伝説的な一冊と言っても良いのではないでしょうか。ヒゲのオッサンが受け、バイトの青年が攻めで、日常的なシーンの中で展開される空気感のある物語は、この後の日常系作品ブームを作ったと言えそうです。

 

 2008年


『センチメンタルガーデンラバー』小椋ムク

ムクさんの二冊目の漫画です。
もう可愛すぎて素敵すぎて言葉がありません。
猫二匹が好きな人のために人間になっちゃうお話(*´Д`*)
それがシリーズで2カップルがそれぞれ一話ずつと、あとは四人(二人と二匹?)全員が出てくるのが一話。
あと短編が四本。どれも良かったvv
あームクさん大好きだ…
綺麗な可愛い世界観がたまんない~
こういうの読むとますます紙面に入りたくなるwww――ひさきさん

人間になった猫と飼い主たちの日常がかわいすぎる! ほのぼのでかわいらしい日常を描いた作品は今読んでも色あせない人外モノの名作です。もはやかわいい以外の語彙が消え失せてしまう表題作と、甘く切ない他の収録作にも注目です!

 

 2009年


『幸せになってみませんか?』腰乃

表題作の甘えることに慣れてないというか知らないノンケオヤジをどろどろに溶かしてあげようとする年下リーマンという構図がまずツボでした・・・!
42歳まで培ってきた考え方や未来予測を全部ひっくり返すような出会いに
少しビクビクしながら、部下に甘やかされていくことに慣れていくノンケオヤジが可愛すぎる。彼なりに相手を思いやる気持ちを育てている過程が読み手をあったか~い気持にさせてくれます。――花の名前さん

唯一無二の作風・絵柄で多くのファンの支持を集める腰乃先生のセカンドコミックス。独特の腰乃イズムで描かれるエロがたまりませんね! 腰乃先生はどこか子供っぽい大人の男の人を描くのが上手い気がします。

 

 2010年


『野ばら』雲田はるこ

もう、ゾワゾワゾワ~っと鳥肌が立ってしまいました。
めちゃくちゃキュンとしてホロリとしましたよ!!
台詞とか表情とか、一つ一つがすごく胸に残ります。
主人公二人とも大人なのに、爽やかで切なくて甘酸っぱくて…
なんだかノスタルジーな作品なのですが、そこがまた素晴らしい!――ミドリさん

ゲイのシングルファーザーとノンケ男の表題作と、心は女の子だけど好きな人のために男であろうとする「みみクン」シリーズが収録されたこのコミックスは、今では一般誌でも活躍する雲田はるこ先生の出世作と言えるでしょう。ちょっとおバカでとにかく魅力的なキャラクターたち、なつかしくて新しい絵柄、雲田先生のエッセンスが詰まった一冊です。

 

 2011年


『キャッスルマンゴー(1)』木原音瀬・小椋ムク

ものすごーく良かったです。萌えた萌えた。さすが木原さんと小椋さん。どこで萌えたか書ききれないほど、全編に渡って萌えました。
大好きなお二人です。
でも作風のまったく違うお二人なので、いったいどうなるんだろうとドキドキしながら読んだんですが、これが見事に噛み合ってました。
木原さんの抜群のストーリー、そこに小椋さんの優しくて色気のある絵が加わってて。
なんだろ、コラボの見本を見たような。お互いから、それまでになかった部分を引き出しあってるような。
ああもう幸せ。
萌えの神様ありがとう。――むつこさん

木原音瀬×小椋ムクという、作風が真逆の2人がタッグを組んだ! その可能性は無限大! 木原作品を読みつけない人にも読みやすく、かつゲイのAV監督と実家がラブホ経営の高校生というエキセントリックな設定も楽しめるコミックスです。

 

 2012年


『彼のバラ色の人生』秀良子

まっすぐな愛を示すコマノに、ネガティブで、あれこれ1人で抱え込んじゃう夏樹。
これこれ!これだからBL読むのやめられんのですよ~!
とってもいい気分で読み終えることのできる作品でした。この気持ちをどう伝えたらよいか…!とにかく、キュンです。ときめき度120%です。良子先生の独特なタッチの絵柄がまたさらにキュン度を倍増させてくれます。これから何度も何度も読み返す作品になりそうです!――ぶたりんさん

秀良子先生の『リンゴに蜂蜜』の続編であるこのコミックスは、幸せになるのが怖いネガティブなゲイの心情が丁寧に丁寧に描かれています。淡々と日常が続く中に感情の機微が描かれる、秀先生の独特の空気感が素敵ですね!

 

 2013年


『くらやみにストロボ』ハヤカワノジコ

ハヤカワノジコさんの高校生は、大好きです!
元気な子や真面目な子、大人びた子、色々なタイプの高校生を上手く絡ませているなぁ、と思いました。
気持ちの表現の仕方がとっても可愛らしいです。
正太朗は、正直過ぎる位に真っ直ぐだし。新は、好きだけど色々考えてしまい言えないけど写真を撮ることで気持ちを吐き出す。
今回もハヤカワノジコさんワールドに引き込んでくれるのは、やっぱり印象的なコマ割りでした。
フィルムが画面に散りばめられ、新の気持ちを考えるととても切なくなりました。――kaysさん

なんといってもハヤカワ先生のコマ割り! まるでコマやフキダシが生きているかのような美しく生命力にあふれている画面に思わずうっとりしてしまいます。作品でのキーアイテムである写真やフィルムに絡めて、キャラの心情が鮮やかに動き出す様子は圧巻。

 

 2014年


『好きなひとほど』はらだ

はらだ先生といえばクズとエロですが、このコミックスはクズが封印されて、穏やかなストーリーが好きな方でも楽しめるマイルド仕様。ただエロいだけじゃなくて、読ませるストーリーはさすがの一言です。
今回の「好きなひとほど」は「当社比糖度高め」とのことでしたので、確かに「やたもも」や「変愛」と比べるとラブラブカップルな印象でした。でもはらだ先生ならではのエロやコミカルな雰囲気、ストーリーの面白さはしっかりあったので満足して読めました!(^_^)――マンボウ大爆発さん

現在、独特の作風のBLを生み出す作家は? と問われれば、五指に入るであろうはらだ先生! 商業デビューは2014年です。リブレ『変愛』、竹書房『やたもも』ときて、年末に登場したのがこの『好きなひとほど』。発売時のちるちるのインタビューでは「当社比糖度高めでいこうと心がけていた気がします」とコメントされていました。はらだ先生が読めてない、というみなさんは、本作から手に取ってみては!?

 

 2015年


『犬と欠け月』ウノハナ

お話としては、まさに王道の展開です。
ボクシングのトレーナーxボクサー
男臭く、ストイックな世界。
お互いに支えあい、更なる高みを目指していく姿が描かれています。
まさにスポコンの王道!
でも、それだけにとどまらないのは、お互いを掛け替えのない存在へと認識するに至った経緯が丁寧に描かれているから。
岳がなぜそこまで一弥に憧れ一途に想い続けるのか、
一弥がなぜ岳を可愛く大切に想うに至ったのか…
この作品のタイトル、すごく良いですよね。
絶望や挫折に潰されそうな2人が、お互いの欠けた部分を埋め合って立ち直って前に進んでいく様が素敵に表現されてて素晴らしいなぁって思いました☆――粉雪さん

稀代のストーリーテラー・ウノハナ先生による王道ボクシングものBLです。王道のスポーツものらしいアツさと、BLらしい切なさ、強く結びついていく二人の絆が三位一体となり丁寧につづられた、誰もが好きになる極上の物語。ちなみに、続編は『Cab』で連載中ですよ!

 

 2016年


『MODS』ナツメカズキ

表紙も帯も黒と白のモノトーンでまとめられ、
帯には
「白く 零れ落ちる、空っぽの愛だけをくれ」
と悲しい言葉が綴られてます。
表紙や帯の印象通りの内容で、結構堪えるというか抉られるというか…。
読むのが所々キツイ箇所があったのですが、差し伸べられる手の温かさに救われました。
ナツメカズキさんのスタイリッシュでクールな画風とピッタリ合わさって心がヒリヒリしつつ、同時に手の温もりも伝わってきて、すごく良かったです。――いるいるさん

悲惨な過去を抱えて空虚に生きるウリセンボーイとノンケの付き人のヒリヒリするような恋模様を描いたこのコミックスは、ちるちるBLアワードでも多くの支持を得ました。今まで東京漫画社ではあまり見られなかった男臭さ、暴力、ヒリヒリするような痛々しさ、夜の世界といったモチーフを描いて、まさに新しい血を入れたと言えるのではないでしょうか。

 

 2017年(暫定)


『ブルースカイコンプレックス(3)』市川けい

とにかく楢崎と寺島の高校生らしさが眩しくて眩しくて。
お互い自分の方が相手に焦がれてると思ってぐるぐるしながらも、素直には言えないですれ違ってしまう。
でも受験生。勉強しなきゃいけないこともわかってる。
恋人のこと、家族のこと、進路のこと。
どれか一つなんて選べない二人が可愛かったです。
あと、最後まで二人がすっっっごく男子なのが嬉しかったです。
男の子でもなく、男性でもなく、男子!!って感じですね。――トッキュウ8号さん

市川けい先生の人気シリーズ、『ブルースカイコンプレックス』感動の完結編です! 市川先生の魅力と言えば、だらだら続くリアルな男子高校生の会話。等身大の男の子の姿に思わずキュンとします!

さて、いかがでしたでしょうか、東京漫画社「マーブルコミックス」の13年。こうして見てみると、00年代はとんがっていたレーベルのテイストが、2012年ごろから少し変わってきたのかなと感じます。オルタナティブ路線からしっかりとした堅実なストーリー作りへのシフトしているのかもしれません。

その中で東京漫画社の特徴を筆者なりにまとめてみました!

まずは何といっても、日常性もしかしたら本当にこんなことあるかも? と思わせる日常のリアリティは東京漫画社のお家芸ですね!
荒唐無稽なファンタジーではなく、地に足ついた男同士の恋愛はBLに新しい風を吹き込みました!

そして、その日常性を演出する空気感。この空気感を描くのが上手い先生が多い気がします。

そんな執筆陣も、それぞれとても個性的で、作家性を重視している印象です。特に、2000年代前半は、尖がった才能を持つ同人作家を多く発掘して、プロ作家に育て上げたという面も大きそうです。

作品の中でゲイキャラ、オネエキャラが多く描かれている印象もありますね。等身大の愛すべきゲイキャラはここ10年ですっかり定着した気がします!

色々な変化がありつつ、でも最新、2017年の作品を見ると日常を描く姿勢は変わってないとも言えそうですね。

そんな13年の歴史を持つ東京漫画社、今後はどんなBLを世に送り出していくのか、目が離せません!

記者:みかん

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